あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 普段なら少々残業になってもお構いなしの大葉(たいよう)が、今日に限ってこんな風にソワソワしているのは他でもない。
 就業時間後に、やっと想いを打ち明けた相手――荒木(あらき)羽理(うり)と、買い物(デート)の約束をしているからだ。

(ヤバイ。定時を《《五分も》》過ぎてるじゃねぇかっ!)

 ――荒木(あらき)が待ちくたびれて帰っちまったらどうしてくれるんだ!だなんて、頭の中でプンスカしている大葉(たいよう)だったけれど、きっと羽理がそれを聞いたら『いやいやいや! 五分やそこらで帰っちゃうとか……私、部長の中でどんだけ短気な《《設定》》なんですか!』と抗議していた事だろう。

 暑い最中(さなか)、成り行きでトマトの出荷作業を手伝ってしまった大葉(たいよう)は、全身に汗をかいていた。おまけに、何なら手指にはトマトの葉茎からする独特な青臭い臭気まで沁みついてしまっている。

(こんなことなら今日はアクアポニックスの視察にすべきだったな!)

 ちょっと前から土恵(つちけい)商事が新規事業として参入したアクアポニックスは、「水産養殖(Aquaculture)」と「水耕栽培(Hydroponics)」を合わせた造語で、魚の飼育と植物の水耕栽培を同時に行うシステムのことだ。

 それこそ開発部の領分だが、大葉(たいよう)の所属する総務部だって社内で何の事業が進行中なのかくらい知っておくことは必要だ。

 開発部長の話によると、提携先の第一プラント内ではエビの養殖とワサビの水耕栽培が進行中らしい。

 きっとそちらへ行けば、こんなに汗だくになることもなかったはずだ。
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