あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 大葉(たいよう)は、ヤキモチを妬いたのだと盛大に告白していることにも気付けない様子でそう告げて、本来ならばライバルであるはずの杏子(あんず)のことを気遣う羽理(うり)のことが、心底愛しいと思ってしまったのだけれど――。

 少し冷静さを取り戻したからだろうか。今頃になって、いつの間にか姿を消してしまった杏子に対して『もう少しうまく断りの言葉を伝えられなかっただろうか?』と心がざわついてしまった。

 考えてみれば、そもそも自分が恵介伯父から見合い話を持ち掛けられた時点で、ハッキリと断り切れなかったことが原因なのだ。

(あんなに長いこと待たせてなけりゃ、杏子だって変に期待することもなかったよな)

 幼い頃、自分にギュッとしがみついて『たいくん、だいしゅき!』と言っていた杏子の顔を思い出して、チクリと胸の奥が痛む。

 長いこと釣書を預かりっぱなしだったくせに、中を確認すらしていなかった自分の在り方はどうだったんだろう? 見る気がない書類なら、伯父が何と言おうとさっさと突き返しておくべきだったのだ。

 面倒くささにかまけて相手(あんず)をさんざんヤキモキさせた挙句、恵介伯父に断りの連絡を任せてしまったのは配慮不足だったように思う。

 例え紹介者を介してのやり取りが見合いのセオリーだったとしても、今回の場合はそれを当てはめるべきではなかったのかも知れない。
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