あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「なぁ志波(しば)、何でそう思うの?」

「えー、今更そんなこと()きます? 俺、何年笹尾さんの下に就いてると思ってるんっすか。あんな上の方から落っこちてほとんど怪我してないって……落ち方うますぎっしょ。怪し過ぎますって」

 そこで〝シバ〟と呼ばれた男がクスクス笑う声が聞こえてきて、岳斗(がくと)は腹立たしさに我知らず、スマホを持つ手に力が込もる。

 正直今すぐ出て行って、二人のことを殴り飛ばしてやりたい気分だ。だが、そんな《《一時的な制裁》》で許してやるのは生ぬるい。そう思い直して、湧き上がる激情をグッと押し殺した。

「いや、俺だって全く無傷ってわけじゃねぇぞ?」

 左手首に巻かれた包帯をわざとらしく見せるササオに、シバが「それだってみんなに騒がれたから怪しまれないよう怪我したってことにしただけで……実際は痛くもなんともないんでしょう?」とニヤニヤする。

「わー、お前ホント鋭すぎて性質(たち)悪いわぁー。それに俺より悪人じゃね?」

「何でですか」

「だってさ、そこまで分かってたら普通、哀れな《《子羊ちゃん》》のために動くもんだろ」

「えー、イヤですよぉー。笹尾さんと安井さんを敵に回してしんどい思いをするくらいなら、笹尾さんがやったこと知った上でなお、俺は味方ですよー? ってアピールしといた方が簡単に甘い蜜吸えそうでいいじゃないっすか」

「ホントお前ってヤツは」

「だからこそ笹尾さん、俺のこと可愛がってくれてるんでしょう?」

「まぁな」

 日和見(ひよりみ)主義で強いモノの味方。そんな後輩だからこそ気に入っているのだと言い切ったササオに、岳斗は眉根を寄せる。そういうズルイ人間の気持ちが分からないこともないと感じてしまう自分が、心の奥底にいるのを感じたからだ。

 かつて屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)(ねた)んで、陰でコソコソと画策していた自分は、確かに彼らと同類だったから。

 だが、だからと言って杏子(あんず)をこんな目に遭わせる人間を許してやる理由にはならない。
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