あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 それを見ていた野次馬の誰かが「わー、安井さん、ひどぉーい」とつぶやいて。安井が声のした方をキッと睨むと同時に別の方角から「本当に。あれだけ二人があからさまに色々してたの、安井さんが気付いてなかったわけないのにね。何か見損なっちゃったぁー」とか「こういう時に守ってくれるのが本当に優しいリーダーなのに残念な人!」とかざわめきが広がって収拾がつかなくなる。

 岳斗(がくと)はそれを冷ややかな目で見詰めながら、冷え冷えするような低音で「よく言うよ」と吐き捨てた。

「みんなして外野を決め込んでるみいだけど……誰か一人ぐらい、ここにいる杏子(あんず)ちゃんの話を親身になって聞いて、味方になってくれた人はいたんですか?」

 ギュッと繋いだままの杏子の手がフルフルと不安げに震えているのを感じるから、岳斗は腹立たしくて堪らない。

「みんなして頭ごなしに彼女のことを否定して孤立させておいて……ホントよく言うよね。僕に言わせれば、ここにいる全員同罪なんだけど?」

「なっ!?」
「そ、それは……!」
 岳斗がその場にいる全員を敵認定したみたいに宣言したのを聞いて、今まで楽しいショーを見ている気分だったんだろう見物人たちが、一斉(いっせい)にざわめき始める。

「岳斗さん……お願い。もう……やめて?」

 岳斗としては社員全員一人ずつ弱みを探って、丁寧に潰していってやりたい気分だったけれど、杏子が岳斗の手を引いて泣きそうな顔をして止めてくるから、ハッとして自分を律した。

「杏子ちゃん……、ごめん。僕、暴走しかけてたね」

 岳斗はどす黒く渦巻く感情を一旦収めると、眉根を寄せて杏子に謝罪する。

 きっと杏子は自分の名誉が回復できただけで良いと思っていて、皆に対する制裁なんて望んでやしないのだ。

 だが、岳斗としてはやはりそれだけでは納得がいかない――。
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