あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 岳斗(がくと)は一度だけうつむいてふぅっと気持ちを切り替えるみたいに吐息を落とすと、次に顔を上げた時には能面のように表情を消していた。

「とりあえず今回の件に関して《《は》》これ以上見苦しい言い訳とかしなくて構いません。ただ、僕は杏子(あんず)ちゃんみたいに優しくないから……二度目はないと心に刻み込んでおくことをお勧めします。もし別の社員相手であってもまた同じようなことが起こったら……今度こそ確実に皆さんをまとめて地獄へ送ってさしあげますから。そのつもりでいてくださいね?」

 淡々と語られる岳斗(がくと)のよく通る声に、(さざなみ)が伝わるようにざわめきが広がっていく。

 岳斗の目の前でギュッとこぶしを握って黙り込んでいた安井が、ここで皆に恩を売れば信頼を取り戻せるとでも思ったのだろうか。

「何故うちの社員でもない貴方にそこまで言われなきゃいけませんの? そ、そもそも! 貴方ごときにそんな真似が出来るとは思えませんわ! ハッタリをかますのもいい加減になさいな!」

 キッと岳斗を睨みつけてそう言い返してきた安井に、周りから「さすが安井さん!」と手のひらを返したような賞賛(しょうさん)の声が飛んでくる。

 だけど岳斗はこれ以上安井を調子に乗せるつもりはないし、ここにいる全員を安心させるつもりもないのだ。

「――出来ると言ったら?」

 酷薄な笑みを浮かべて岳斗がそう告げたところへ、さすがに社内の騒がしさを察知したんだろう。

 何ごとかと様子を見に来たらしい如何にも〝上役(うわやく)〟といった壮年の男が現れて。岳斗は彼を認めるなりニコッと微笑んで軽く会釈(えしゃく)をした。

 岳斗のそんな仕草に気付いて彼の視線の先を見遣った社員らが、次の瞬間には息を呑んで、水を打ったみたいにシン……と静まり返った。
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