あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
44.人事異動
 土恵(つちけい)商事社長・土井恵介の自宅は会社からさほど離れていない場所にあった。

 二〇階建ての高層マンションの最上階に位置するペントハウス。

 窓辺に寄っただけで足がすくんでしまう高さに住む伯父の家が、高所恐怖症の大葉(たいよう)は、子供の頃からあまり得意ではなかった。

「すっごい高いビルですねー」

 ほわぁーと吐息を落としながらそびえたつ高層マンションを眺める羽理(うり)に、大葉(たいよう)は「新居、こういうところがいいとか言わねぇよな!?」と問わずにはいられない。

「えー? そんな《《贅沢》》言いませんよぅ」

「贅沢なのかっ!」

「だってタワマンって上に行けば行くほどお家賃とか高いイメージです!」

 大葉(たいよう)にとって苦痛でしかない高層階住まいは、羽理にとっては憧れなのかも知れない。

 そう思ってソワソワした大葉(たいよう)だったのだけれど、羽理がどこか照れた顔で、「……けど、私、大葉(たいよう)と一緒ならどこでも最高に幸せです、よ……?」とか言うから、不意打ちを喰らった形になった大葉(たいよう)は羽理以上に照れてしまった。

 その上、追い打ちを掛けるみたいに「それに……そもそもマンションじゃ、大葉(たいよう)の希望が叶わないじゃないですか。私、大葉(たいよう)も幸せじゃなきゃ嫌です」などと付け加えてくるとか……。ここが伯父宅のすぐそば――しかも外じゃなかったら、確実に抱きしめていたところだ。
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