あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「え? ――あ、はい。か、会議は機密事項が多いので……我が社では意図的にカメラの類いは設置していません」

 そう答えた近衛(このえ)社長に、岳斗(がくと)が「非常に残念な考え方です」と吐息を落とした。

「それは社内から機密が漏れないように徹底していれば問題ないことだと思いませんか? 先ほども階段の踊り場が防犯カメラの死角になっていることが今回の事態を招いたとご理解いただけたはずです。今一度社内の風紀を正すとともに、セキュリティの在り方についても再考なさることをお勧めします」

 一息に言ったのち、岳斗はじっと近衛社長を見詰めながら、
「一度それで酷い目に遭った彼女にとって、今からお聞かせする音声録音は自衛のために必要不可欠な手段だったんです」
 そう断言する。

 中村経理課長も、近衛社長も、さすがにもう何も言えなかった。


***


 セクハラ、パワハラの証拠として岳斗(がくと)が録音した音声も、杏子(あんず)の録音したものと合わせて近衛(このえ)社長に提出する。

 当然岳斗が録音した音声には笹尾と下卑(げび)た会話を繰り広げる志波(しば)の声も入っていたから、杏子に直接何かをしたわけではない彼も岳斗の中ではバッチリ処罰対象だ。多くの社員らの手前、杏子を傷つけ兼ねないとカットした彼女の容姿(バスト)に対するバカな会話も、社長にだけは聞いてもらうことにした。

 いじめに関しては、岳斗(がくと)自身が目の前で杏子が足を引っ掛けられて転ばされそうになったり、杏子の尊厳を傷つけるような酷い言葉を投げ掛けられたりしたことを話しただけで、証拠となるものこそなかったものの、「――ですよね?」と岳斗が経理課の女性陣三名に視線を流しただけでアッサリと罪を認めさせることが出来た。

 それらが済んだうえで、岳斗は近衛社長へ《《ある提案》》をした。岳斗の言葉を聞いた近衛社長はさすがに驚いたようで、「し、しかし、それは……!」と難色を示したのだけれど、岳斗が「何か問題でも?」と一瞥(いちべつ)しただけで黙ってしまう。

 杏子はそんな様子を見詰めながら、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)という男性は、この会社にとって絶大な影響力を持つ立場にいる人間なのだと改めて実感した。
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