あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「やっと元通りのペアになりました♪」

 (つい)になったお守りを見て、嬉しそうに微笑む羽理(うり)を見ながら、大葉(たいよう)は何の気なし。「落ち着いたら一緒に居間猫(いまねこ)神社へお礼参りに行こうな?」と声を掛けたのだけれど。

 途端、慌てたように羽理からブンブンと腕を振り回されながら、「大葉(たいよう)とは行きません! 私一人で行くので、大葉(たいよう)は絶対あの辺りには近付かないで下さい!」などと、何とも寂しいことを言われてしまった。

 引っ越しの件にしてもそう。これは羽理なりに何か理由でもあるのかと思いつつも、「なんでだ!」と抗議せずにはいられなかった大葉(たいよう)に、羽理が泣きべそをかく。

「だって……」

 その様子にただならぬものを感じた大葉(たいよう)が羽理を(なだ)めながら、「だって……、なんだよ? 言ってくれなきゃ分かんねぇだろ?」と先を(うなが)したら、「杏子(あんず)さんが……。彼女もあの辺りに住んでいらっしゃるって聞いたから……」とか。

 確かに倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)から、美住(みすみ)杏子(あんず)とは居間猫神社で出会ったと聞かされたなと思って……。それがこのことと何の関係があるんだろう? と考えた大葉(たいよう)は、ややしてハッとする。


大葉(たいよう)は優しい人です。杏子さんと出会ってしまったらきっと……フン! なんて出来ないはずです。私は大葉(たいよう)のそういうところが大好きですけど……それでもやっぱりイヤなんです。だって杏子さんは大葉(たいよう)のことが好きだから」

 今、羽理(うり)が言ったばかりのことに思い至りはしたものの、(そんなん俺の自惚(うぬぼ)れだよな)と思い直そうとしたばかりだった大葉(たいよう)だ。

 それをハッキリと羽理自身の口から〝ヤキモチ〟だと示唆(しさ)された形になって、大葉(たいよう)は不謹慎だと思いながらも嬉しくてたまらなくなる。


「羽理! 指輪、買いに行くぞ!」

 泣きそうな顔をした羽理の手をギュウッと握ると、大葉(たいよう)はすっくと立ち上ってキョトンとした顔で自分を見上げる羽理を半ば無理矢理立ち上がらせた。

「あのっ。でも大葉(たいよう)! ……指輪ならもう」

 羽理が躊躇(ためら)うように、恵介伯父の自宅へ呼ばれるより前。建売(たてうり)のいい庭付き一戸建てはないかと不動産屋めぐりをしていた時に、二人は気に入った婚約指輪と結婚指輪をすでに発注済みだった。

 だが、羽理が好きな猫のシルエットや肉球をふんだんにデザインへ取り入れたそれらの指輪は、仕上がりまでに、あと数週間は優にかかる。


「前々から思ってたんだがな、それが出来るまでの期間、俺はお前をフリーだなんて思わせたくねぇんだよ!」

「へ?」

「俺もお前だけのモンだって《《目印》》を付けてぇ。買ったら即刻その場でして帰れるペアリング、今から見に行くぞ! 家と一緒で発注してんの(本チャン)が出来るまでの仮措置だ!」

「あの、でも……大葉(たいよう)

「ちゃんとしたのが届いたらトレードすりゃいいだけの話だろ。つべこべ言うな」

 なおもモニャモニャ言い募る羽理を強引に従えて、大葉(たいよう)はマンションを飛び出した。
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