あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
48.離れている間も幸せだったけど、気が付いたら浦島太郎になっていました
「でね、でね、七味お義姉さまは本当にすごい人なんですっ!」
羽理が土恵商事を離れて『オフィスオール』へ出向してから、およそ二ヶ月が過ぎた。
あとひと月もすれば、土恵商事――というより自分のすぐそばへ愛しい彼女が戻ってきてくれる思うと、その日が待ち遠しくて堪らない大葉だ。
「まぁあの人は昔っから何でも卒なくこなすタイプだったからな」
職場は離れても何とか腐らずにいられたのは、こんな風に家では羽理の息遣いを間近に感じながら過ごせるからに他ならない。
自分が作ったキムチ鍋を、ハフハフしながら嬉し気につつく羽理を見詰めて、大葉は思わず頬を緩ませる。
キムチには豚肉が合うと思って、今日は脂のよくのった豚バラ肉がたっぷり入れてあるのだが、大葉としては羽理には一緒に煮込まれた白菜や長ネギ、キノコやニラ、もやしや豆腐なんかもしっかり食べさせたい。
「ほら、よそってやるから皿貸せ」
湯気越し。空っぽになった皿を片手に鍋の中をじっと見つめる羽理が見えて、大葉はついお節介をしたくなる。
「自分で取れますよぅ」
羽理がぷぅっと頬を膨らませるのを見詰めながら「お前に任せてたら肉ばっか狙うだろうが」と言ったら「失礼ですね! ちゃんとソーセージも取るつもりですよ!?」とか。
「どっちみち肉だろうが」
クスクス笑いながら言ったら、羽理がグッと言葉を詰まらせて、大葉はそんな彼女の手からすかさず取り皿を奪い取った。
「あっ」
抗議の声を上げる羽理を無視してまんべんなく具材をあれこれつぎ分けながら、「で? 七味からは、なに習ったんだ?」と羽理を見詰める。
「えっと……餃子も作りましたし、釜めしも作りました! あ。先週行ったときは筑前煮も習ったんですよ!?」
「筑前煮、上手く出来たのか?」
「……み、みんなと一緒だったのでっ」
実は七味からは『オフィスオール』で秘書としてのノウハウを学ぶだけでなく、ついでみたいに土日祝日を利用して花嫁修業的なことも教えてもらっている羽理である。
このところ休みになると七味が羽理を迎えに来て実家へ掻っ攫って行ってしまうから、大葉としては非常に面白くないのだ。
付いて行こうとすると「男子禁制」だと七味に言われてしまうので、『毎週毎週、別に無理はしなくていいんだぞ? たまには休め!』と羽理を何度も唆してみている大葉である。だが残念ながら、時にはすぐ上の姉の柚子や母・果恵までが混ざって女性陣数人でワイワイガヤガヤするのが、もともと女系一家で過ごしてきた羽理には楽しくてたまらないらしい。
『無理なんてしてませんよ? むしろすっごく楽しいです!』
なんて、大葉の心を無下にする。
「筑前煮、今度俺と一緒に作ろう。俺だって教えてやれる。むしろ七味より上手に!」
そんなあれこれを思い出して、なんとなく対抗心を燃やしたら、
「たっ、大葉が一緒だと私、野菜とか洗うのしかやらせてもらえないのでイヤです!」
と羽理が誘いを断ってくる。
「切ったり味付けしたりも頼んでいいのか?」
「……っ!」
言葉に詰まる羽理を見て、(こいつ、実家では何をやらせてもらってるんだろうな?)と思わなくもない大葉だ。
「ほら」
鍋の横から、たんまりあれこれ乗せた、湯気のくゆる取り皿を羽理へ手渡してやりながら、伸ばされてきた彼女の小さな手を見てふと思う。
「なぁ羽理。まさかお前、俺と一緒にいねぇときに指輪、外してねぇだろうな?」
結局、仮初として買った指輪は、正規の婚約指輪――プラチナリングの上で、ゴールドで出来た猫がダイヤをボールに見立ててたまを取っているデザイン――と重ね付けする形で、羽理の左手薬指を飾っている。
大葉自身も、羽理とお揃いというだけで仮初のリングをかれこれ二ヶ月ちょっと付けたままだ。
先日ふと何の気なしに指輪を外してみたら、常に指輪がはまっていた部分がちょっぴり痩せていて、いかにもここに指輪がありました、という状態になっていた。
「な、なんですかっ」
羽理が訝るのを無視して渡したばかりの取り皿をテーブルの上へ置かせて重ね付けされた羽理の指輪を外してみたら、彼女の指も自分と同じようになっていてホッとする。
「ちゃんと俺の言いつけを守って指輪、外さずに過ごしてるみてぇだな」
スリスリと愛し気にちょっとだけ細ッとなった彼女の指の付け根を撫でると、羽理が「くすぐったいですっ」とクスクス笑った。
羽理が土恵商事を離れて『オフィスオール』へ出向してから、およそ二ヶ月が過ぎた。
あとひと月もすれば、土恵商事――というより自分のすぐそばへ愛しい彼女が戻ってきてくれる思うと、その日が待ち遠しくて堪らない大葉だ。
「まぁあの人は昔っから何でも卒なくこなすタイプだったからな」
職場は離れても何とか腐らずにいられたのは、こんな風に家では羽理の息遣いを間近に感じながら過ごせるからに他ならない。
自分が作ったキムチ鍋を、ハフハフしながら嬉し気につつく羽理を見詰めて、大葉は思わず頬を緩ませる。
キムチには豚肉が合うと思って、今日は脂のよくのった豚バラ肉がたっぷり入れてあるのだが、大葉としては羽理には一緒に煮込まれた白菜や長ネギ、キノコやニラ、もやしや豆腐なんかもしっかり食べさせたい。
「ほら、よそってやるから皿貸せ」
湯気越し。空っぽになった皿を片手に鍋の中をじっと見つめる羽理が見えて、大葉はついお節介をしたくなる。
「自分で取れますよぅ」
羽理がぷぅっと頬を膨らませるのを見詰めながら「お前に任せてたら肉ばっか狙うだろうが」と言ったら「失礼ですね! ちゃんとソーセージも取るつもりですよ!?」とか。
「どっちみち肉だろうが」
クスクス笑いながら言ったら、羽理がグッと言葉を詰まらせて、大葉はそんな彼女の手からすかさず取り皿を奪い取った。
「あっ」
抗議の声を上げる羽理を無視してまんべんなく具材をあれこれつぎ分けながら、「で? 七味からは、なに習ったんだ?」と羽理を見詰める。
「えっと……餃子も作りましたし、釜めしも作りました! あ。先週行ったときは筑前煮も習ったんですよ!?」
「筑前煮、上手く出来たのか?」
「……み、みんなと一緒だったのでっ」
実は七味からは『オフィスオール』で秘書としてのノウハウを学ぶだけでなく、ついでみたいに土日祝日を利用して花嫁修業的なことも教えてもらっている羽理である。
このところ休みになると七味が羽理を迎えに来て実家へ掻っ攫って行ってしまうから、大葉としては非常に面白くないのだ。
付いて行こうとすると「男子禁制」だと七味に言われてしまうので、『毎週毎週、別に無理はしなくていいんだぞ? たまには休め!』と羽理を何度も唆してみている大葉である。だが残念ながら、時にはすぐ上の姉の柚子や母・果恵までが混ざって女性陣数人でワイワイガヤガヤするのが、もともと女系一家で過ごしてきた羽理には楽しくてたまらないらしい。
『無理なんてしてませんよ? むしろすっごく楽しいです!』
なんて、大葉の心を無下にする。
「筑前煮、今度俺と一緒に作ろう。俺だって教えてやれる。むしろ七味より上手に!」
そんなあれこれを思い出して、なんとなく対抗心を燃やしたら、
「たっ、大葉が一緒だと私、野菜とか洗うのしかやらせてもらえないのでイヤです!」
と羽理が誘いを断ってくる。
「切ったり味付けしたりも頼んでいいのか?」
「……っ!」
言葉に詰まる羽理を見て、(こいつ、実家では何をやらせてもらってるんだろうな?)と思わなくもない大葉だ。
「ほら」
鍋の横から、たんまりあれこれ乗せた、湯気のくゆる取り皿を羽理へ手渡してやりながら、伸ばされてきた彼女の小さな手を見てふと思う。
「なぁ羽理。まさかお前、俺と一緒にいねぇときに指輪、外してねぇだろうな?」
結局、仮初として買った指輪は、正規の婚約指輪――プラチナリングの上で、ゴールドで出来た猫がダイヤをボールに見立ててたまを取っているデザイン――と重ね付けする形で、羽理の左手薬指を飾っている。
大葉自身も、羽理とお揃いというだけで仮初のリングをかれこれ二ヶ月ちょっと付けたままだ。
先日ふと何の気なしに指輪を外してみたら、常に指輪がはまっていた部分がちょっぴり痩せていて、いかにもここに指輪がありました、という状態になっていた。
「な、なんですかっ」
羽理が訝るのを無視して渡したばかりの取り皿をテーブルの上へ置かせて重ね付けされた羽理の指輪を外してみたら、彼女の指も自分と同じようになっていてホッとする。
「ちゃんと俺の言いつけを守って指輪、外さずに過ごしてるみてぇだな」
スリスリと愛し気にちょっとだけ細ッとなった彼女の指の付け根を撫でると、羽理が「くすぐったいですっ」とクスクス笑った。