あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「あ、あのっ。ちょっとした荷物持ち罰ゲームをしてて……それで五代くんが負けてっ」
仁子の言葉に懇乃介が「えっ。ゲームなんて」〝してませんよ?〟と言い掛けたのを、仁子がグッと足を踏んで黙らせる。
「法忍先輩、痛いですよぅっ」
「ごめんっ。ちょっと足がもつれちゃった」
笑って誤魔化そうとする仁子に、懇乃介がさらに何かを言い募ろうとするのを、「五代くん、こっちにおいで」と羽理が呼んで制すると、仁子の位置と懇乃介の位置が自然と入れ替わった。
大葉が「オイ、羽理っ」と不満気なのを無視して、羽理は懇乃介に小声で尋ねる。
「ね、もしかして彼が大葉の代わりにきた、新しい総務部長様?」
「え? あ、はい。そうっす」
懇乃介の答えを聞いて、羽理は思わずニンマリしてしまう。
(今まで何だかんだ言って会えなかった仁子の想い人を、こんな形で拝めるなんて!)
これは、このまま一緒にお参りしたらいいんじゃないだろうか?
(あ、でも……)
「ねぇねぇ杏子」
懇乃介を飛び越えてヒョコヒョコと顔を覗かせながら杏子に声を掛けると、大葉が「おい、五代。お前俺の隣に来い」と女性二人の間に挟まれてお邪魔虫と化している懇乃介を一番端っこへ誘ってくれる。
大葉のお陰で杏子と隣り合わせになれた羽理だったけれど、杏子は背後でマゴマゴしている二人をチラチラ気にしながら小首を傾げてくる。そんな杏子同様、羽理も背後を気にしながら杏子に囁いた。
「仁子はもう彼に告白とかしてるのかな?」
「アプローチはしまくってるって話ですけど、お相手が何か鈍いみたいでうまく伝わっていないかもってよくぼやいてます」
「あああ」
だとしたら、逆に縁結びの御守を華南部長の目の前で買って片割れを持っていてください、ってしても問題ないかな? と思ってしまった羽理である。
仁子が彼に気持ちを隠しているなら考えなくてはいけないけれど、仁子が伝えたくてたまらないのに伝わっていないならば、むしろ分かりやすいぐらいに直接的に攻める方が好都合ではないか。
後ろで仁子のスポーツバッグまで持ってあげている華南部長を見て、羽理は(脈、ありそうだし)とほくそ笑んだ。
***
「はじめまして。屋久蓑副社長の専属秘書をしております荒木羽理と申します」
人気の少ない神社の裏手まで来ると、羽理はやっとのこと、ずっと背後を歩いていた新しい総務部長・華南謹也にまともな挨拶が出来た。
「ああ、貴女が……」
ビシッと背筋を正して「総務部長の華南謹也です」と手を差し出してくるのを、大葉が横合いからサッと掻っ攫うように握って、「すみません。彼女は俺の妻になる女性ですので」とわけの分からない理由を述べて阻止してくる。
そんな大葉に一瞬瞳を見開いた華南部長だったけれど、すぐさま「これは失礼しました」と目尻を下げた。
嫉妬心丸出しの大葉の愚行が恥ずかしくて、心の中で(大葉のバカぁぁぁ!)と恋人を罵った羽理だったけれど、ふと視線を転じた先。華南部長のすぐ横で、親友の法忍仁子がホッとしたように男性陣二人のやり取りを眺めているのを見て、案外大葉の行動は正解だったのかも? と思い直した。
「あのっ、あのっ。華南部長。俺も! 俺も握手してもらっていいですか?」
大葉と華南部長がグッと手を握り合っているのが羨ましかったんだろうか。
幻のしっぽをブンブン振りながら、五代懇乃介が華南部長に手を差し出して、部長が「ああ構わないよ」とその手をギュッと握り返した。
「わぁーっ、ちょっ、待っ。痛いっす、痛いっす! 部長、もっと力を緩めて下さい」
途端ギャーギャーわめく懇乃介に、仁子が楽しそうに笑うのを見て、羽理は大葉と二人、顔を見合わせて微笑み合った。
実は人混みを抜けてからすぐ、岳斗と杏子はコンビニに猫神様への貢物を買いに行ってくれていて、今ここには大葉、羽理、仁子、華南部長、懇乃介の五人しか残っていない。
「あのぉー、俺、さっきから気になってたんっすけど……」
状況がイマイチ呑み込めていない懇乃介が、スリスリと赤らんだ手をさすりながら、仲睦まじげに隣り合って立つ仁子と華南部長を見比べて小首を傾げた。
「お二人はお付き合いされているんですか?」
そうして、いきなり特大級の爆弾を投下するのだ。
懇乃介の言葉にビクッと肩を跳ねさせて、「お、おちゅきあぃ!?」と呂律が回らなくなった仁子に代わって、しっかりとした問い掛けを行ったのは意外にも華南部長だった。
「五代くん、な、んで、そう思ったの、かな?」
ドギマギとした口調はともかくとして、懇乃介に理由を尋ねながらも彼が仁子の方を気にしているのを見た羽理は、(あらあらあら♥)とニマニマする。
そんな羽理の横で、大葉が「えっ。あの二人、そうだったのか!?」と羽理に小声で問い掛けてきた。
そっと三人に背中を向けるようにして大葉の耳元へ唇を寄せると、「仁子がね、ずっと華南部長にアプローチしてたんですよ」と羽理が囁いたら、大葉が「へぇー、法忍さん、ああいうタイプが好みだったかぁー」と吐息を落とす。
「あ、それで……猫神探し!」
羽理と杏子が仁子に縁結びの御守の説明をしているのを補足しながら、大葉はてっきり『相手の定まらない仁子にもいい人が出来たらいいな?』くらいのつもりで女性陣が盛り上がっているのだと思っていた。
それで羽理たちに倣って、気になる相手へ御守の片割れを渡せと仁子へアドバイスしたのだが、まさかその相手がすでにロックオンされているとは思いもしなかった。
仁子の言葉に懇乃介が「えっ。ゲームなんて」〝してませんよ?〟と言い掛けたのを、仁子がグッと足を踏んで黙らせる。
「法忍先輩、痛いですよぅっ」
「ごめんっ。ちょっと足がもつれちゃった」
笑って誤魔化そうとする仁子に、懇乃介がさらに何かを言い募ろうとするのを、「五代くん、こっちにおいで」と羽理が呼んで制すると、仁子の位置と懇乃介の位置が自然と入れ替わった。
大葉が「オイ、羽理っ」と不満気なのを無視して、羽理は懇乃介に小声で尋ねる。
「ね、もしかして彼が大葉の代わりにきた、新しい総務部長様?」
「え? あ、はい。そうっす」
懇乃介の答えを聞いて、羽理は思わずニンマリしてしまう。
(今まで何だかんだ言って会えなかった仁子の想い人を、こんな形で拝めるなんて!)
これは、このまま一緒にお参りしたらいいんじゃないだろうか?
(あ、でも……)
「ねぇねぇ杏子」
懇乃介を飛び越えてヒョコヒョコと顔を覗かせながら杏子に声を掛けると、大葉が「おい、五代。お前俺の隣に来い」と女性二人の間に挟まれてお邪魔虫と化している懇乃介を一番端っこへ誘ってくれる。
大葉のお陰で杏子と隣り合わせになれた羽理だったけれど、杏子は背後でマゴマゴしている二人をチラチラ気にしながら小首を傾げてくる。そんな杏子同様、羽理も背後を気にしながら杏子に囁いた。
「仁子はもう彼に告白とかしてるのかな?」
「アプローチはしまくってるって話ですけど、お相手が何か鈍いみたいでうまく伝わっていないかもってよくぼやいてます」
「あああ」
だとしたら、逆に縁結びの御守を華南部長の目の前で買って片割れを持っていてください、ってしても問題ないかな? と思ってしまった羽理である。
仁子が彼に気持ちを隠しているなら考えなくてはいけないけれど、仁子が伝えたくてたまらないのに伝わっていないならば、むしろ分かりやすいぐらいに直接的に攻める方が好都合ではないか。
後ろで仁子のスポーツバッグまで持ってあげている華南部長を見て、羽理は(脈、ありそうだし)とほくそ笑んだ。
***
「はじめまして。屋久蓑副社長の専属秘書をしております荒木羽理と申します」
人気の少ない神社の裏手まで来ると、羽理はやっとのこと、ずっと背後を歩いていた新しい総務部長・華南謹也にまともな挨拶が出来た。
「ああ、貴女が……」
ビシッと背筋を正して「総務部長の華南謹也です」と手を差し出してくるのを、大葉が横合いからサッと掻っ攫うように握って、「すみません。彼女は俺の妻になる女性ですので」とわけの分からない理由を述べて阻止してくる。
そんな大葉に一瞬瞳を見開いた華南部長だったけれど、すぐさま「これは失礼しました」と目尻を下げた。
嫉妬心丸出しの大葉の愚行が恥ずかしくて、心の中で(大葉のバカぁぁぁ!)と恋人を罵った羽理だったけれど、ふと視線を転じた先。華南部長のすぐ横で、親友の法忍仁子がホッとしたように男性陣二人のやり取りを眺めているのを見て、案外大葉の行動は正解だったのかも? と思い直した。
「あのっ、あのっ。華南部長。俺も! 俺も握手してもらっていいですか?」
大葉と華南部長がグッと手を握り合っているのが羨ましかったんだろうか。
幻のしっぽをブンブン振りながら、五代懇乃介が華南部長に手を差し出して、部長が「ああ構わないよ」とその手をギュッと握り返した。
「わぁーっ、ちょっ、待っ。痛いっす、痛いっす! 部長、もっと力を緩めて下さい」
途端ギャーギャーわめく懇乃介に、仁子が楽しそうに笑うのを見て、羽理は大葉と二人、顔を見合わせて微笑み合った。
実は人混みを抜けてからすぐ、岳斗と杏子はコンビニに猫神様への貢物を買いに行ってくれていて、今ここには大葉、羽理、仁子、華南部長、懇乃介の五人しか残っていない。
「あのぉー、俺、さっきから気になってたんっすけど……」
状況がイマイチ呑み込めていない懇乃介が、スリスリと赤らんだ手をさすりながら、仲睦まじげに隣り合って立つ仁子と華南部長を見比べて小首を傾げた。
「お二人はお付き合いされているんですか?」
そうして、いきなり特大級の爆弾を投下するのだ。
懇乃介の言葉にビクッと肩を跳ねさせて、「お、おちゅきあぃ!?」と呂律が回らなくなった仁子に代わって、しっかりとした問い掛けを行ったのは意外にも華南部長だった。
「五代くん、な、んで、そう思ったの、かな?」
ドギマギとした口調はともかくとして、懇乃介に理由を尋ねながらも彼が仁子の方を気にしているのを見た羽理は、(あらあらあら♥)とニマニマする。
そんな羽理の横で、大葉が「えっ。あの二人、そうだったのか!?」と羽理に小声で問い掛けてきた。
そっと三人に背中を向けるようにして大葉の耳元へ唇を寄せると、「仁子がね、ずっと華南部長にアプローチしてたんですよ」と羽理が囁いたら、大葉が「へぇー、法忍さん、ああいうタイプが好みだったかぁー」と吐息を落とす。
「あ、それで……猫神探し!」
羽理と杏子が仁子に縁結びの御守の説明をしているのを補足しながら、大葉はてっきり『相手の定まらない仁子にもいい人が出来たらいいな?』くらいのつもりで女性陣が盛り上がっているのだと思っていた。
それで羽理たちに倣って、気になる相手へ御守の片割れを渡せと仁子へアドバイスしたのだが、まさかその相手がすでにロックオンされているとは思いもしなかった。