あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「ふぅーん、なるほどなぁ」
妙に納得してしみじみとつぶやいた大葉の背後で、まだ何も分かっていないはずなのに何故かやたら核心を突きまくっている五代懇乃介が、「なんでって……今日もお二人で一緒にジムへ行かれた帰りなんでしょう? で、ここでこっそりお祭りデートの待ち合わせをしてらしたのに、なんにも知らない俺たちが邪魔しちゃったもんだから実は戸惑っていらっしゃる。そうでしょう?」と更なる追い打ちをかけている。
そんな懇乃介の足元に、いつの間にきたのだろうか?
羽理たちのお目当てなふくふく三毛猫がスリスリと擦り寄っているのだが、みんな各々の会話に夢中で気が付けない。
そんな中、猫は懇乃介、仁子、華南部長の周りを、まるで円陣でも描くようにぐるぐると回り始めた。
「あ、いや……ジムで一緒だったのは確かだが……別に待ち合わせをしていたわけじゃなく……」
ゴニョゴニョと語尾が尻すぼみになっていく華南部長に、「確かに待ち合わせはしてなかったですけど、私……ちょっとだけ《《謹也さん》》にお会いできるかな? とか期待しちゃってました」と仁子が頬を染めてソワソワする。
実は仁子が押せ押せな発言をしている間中、まるでそれを後押しするみたいに仁子の足にふくふくニャンコのワガママボディが擦り寄せられていたのだが、好きな相手しか見えていない仁子の五感は、ただひたすらに華南部長へと注がれていて気付いていない。
「えっ、ちょっ、《《仁子さん》》」
そんな仁子の言葉に釣られたように仁子の名を呼んでブワリと赤くなる華南部長を見て、懇乃介が二人を交互に見つめながら言うのだ。
「どう見てもお二人、両想いじゃないっすか。もう、四の五の言わずに付き合っちゃえばいいんですよ」
懇乃介がそう言った瞬間、三人の真ん中にちょこんと座った三毛猫の目がキラリと光ったのが、三人のやり取りをただただ見守るしか出来なかった羽理と大葉にはハッキリと見えた。
それと同時――。
「お待ち遠さまぁ~。猫ちゃん用の焼きカツオのパウチ、買ってきましたぁ~」
「ついでに冷たい飲み物も買ってきたんで、あっちの日陰で飲みませんか?」
ホワンとした声音で、何も知らない美住杏子と倍相岳斗が五人+一匹に、のほほんと声をかけた。
***
「あれ? ひょっとして僕たちがいない間に何かありましたか?」
だが、さすがというべきか。すぐさま五人の様子がおかしいことに気付いた岳斗がキョトンとして。
「あー、猫ちゃん!」
二人が、買ってきた美味しいものの気配を嗅ぎつけたんだろう。仁子たちのそばを離れて自分の足元へ一目散に走り寄ってきたふくよか三毛猫に、杏子が嬉しそうに声を掛けた。
「ねぇ猫ちゃん、今日は御守屋さん、来てないのかな?」
ふくよか三毛猫のそばへしゃがみ込むと、羽理は杏子たちが買ってきてくれたばかりの焼きカツオパウチを開封しながら猫に声を掛ける。
みんなであげなきゃ意味がないので、鶏ささみくらいの大きさのカツオの端っこをちょっぴり千切り取って手のひらに乗っけたら、猫は《《大元の方の塊》》を恨めし気にじっと見つめてきた。
「ダーメ! これは他の人からもらってね」
言いながら、すぐ横にしゃがみ込んだ仁子に開封済みのカツオパウチを渡すと、猫は羽理の手にある一口サイズのカツオ肉をウニャウニャ言いながら瞬く間に平らげて、すぐさま仁子へすり寄った。
その現金さにクスッと笑いながら羽理が立ち上がる。そんな羽理を真似て、仁子がちょっとだけカツオを千切り取ったら、すぐ横から「そのちっこい欠片、私に下さいね」と杏子が仁子の手から爪先サイズのカツオを奪うのだ。
「え、ちょっと杏子!?」
そのことに驚いた仁子へウィンクすると、「残りを五代さんと半分にわけっ子して猫ちゃんへ」と杏子が言って。
「何で私と五代くんのだけ大きいの?」
当然というべきか、仁子は明らかに戸惑っている。
「そりゃー私も杏子もお願い事、もう叶ってるからだよ? 今から叶えてもらわなきゃいけない二人からの貢物の方が大きいのは当然でしょう?」
そんな仁子へ羽理がクスクス笑いながら答えたら、杏子が「そうそう」と相ずちを打った。
そうこうしてるうち、杏子の手の中の小さな魚肉を食べ終えた猫が、ぼんやりしたままの仁子(が手にしたパウチ)へターゲットを切り替えた。
「仁子さん、貸して?」
三毛猫が、仁子が手にしたパウチへ今にも猫パンチを食らわせようとしているのを察して、仁子の手を引いて立ち上がらせると、華南部長がお供え物を奪い取った。
手が汚れるのを気にした風もなくカツオをギュッと握って真っ二つに折り千切ると、片側を懇乃介へ「ほら」と差し出す。
「え、あの……これ」
「そこのポヨポヨ三毛猫にやるんだよ。そうしたらきっと、お前にも恋人が出来る」
突然突き出されたカツオにまごつく懇乃介へ、大葉がククッと笑って猫神様のご利益を説けば、大葉の横にいる羽理も恋人を後押しするみたいに「そうそう」とうなずくのだ。
「この猫が俺にも彼女を……」
二人に言われるままふくふくニャンコへ視線を落とした懇乃介は、見詰め返してきた三毛猫から「ニャーン」と鳴かれて、突如「よっしゃぁ!」と謎の気合を入れる。その勢いのままにいきなりしゃがむと、「来い!」と猫へ向けて手渡されたばかりのカツオを突き出した。
猫は一瞬だけ懇乃介の激しい動きに驚いたみたいにビクッとしたけれど、すぐさま「ニャニャーン♪」と嬉し気に鳴いてウニャウニャ言いながら差し出されたカツオをむさぼり始める。
「こいつ、絶対『うまうま』って言ってますね」
頬を紅潮させて喜ぶ懇乃介を見て、仁子が前へ出ようとしたら、「か、噛まれたらいけないので俺がっ」と華南部長が大きな掌の上に残りのカツオを乗っけた。
「仁子さんは俺の横で一緒に」
仁子を優しい目で見下ろす華南部長を見て、羽理は(こっちにはもう、お参りは要らないかも?)と思った。
妙に納得してしみじみとつぶやいた大葉の背後で、まだ何も分かっていないはずなのに何故かやたら核心を突きまくっている五代懇乃介が、「なんでって……今日もお二人で一緒にジムへ行かれた帰りなんでしょう? で、ここでこっそりお祭りデートの待ち合わせをしてらしたのに、なんにも知らない俺たちが邪魔しちゃったもんだから実は戸惑っていらっしゃる。そうでしょう?」と更なる追い打ちをかけている。
そんな懇乃介の足元に、いつの間にきたのだろうか?
羽理たちのお目当てなふくふく三毛猫がスリスリと擦り寄っているのだが、みんな各々の会話に夢中で気が付けない。
そんな中、猫は懇乃介、仁子、華南部長の周りを、まるで円陣でも描くようにぐるぐると回り始めた。
「あ、いや……ジムで一緒だったのは確かだが……別に待ち合わせをしていたわけじゃなく……」
ゴニョゴニョと語尾が尻すぼみになっていく華南部長に、「確かに待ち合わせはしてなかったですけど、私……ちょっとだけ《《謹也さん》》にお会いできるかな? とか期待しちゃってました」と仁子が頬を染めてソワソワする。
実は仁子が押せ押せな発言をしている間中、まるでそれを後押しするみたいに仁子の足にふくふくニャンコのワガママボディが擦り寄せられていたのだが、好きな相手しか見えていない仁子の五感は、ただひたすらに華南部長へと注がれていて気付いていない。
「えっ、ちょっ、《《仁子さん》》」
そんな仁子の言葉に釣られたように仁子の名を呼んでブワリと赤くなる華南部長を見て、懇乃介が二人を交互に見つめながら言うのだ。
「どう見てもお二人、両想いじゃないっすか。もう、四の五の言わずに付き合っちゃえばいいんですよ」
懇乃介がそう言った瞬間、三人の真ん中にちょこんと座った三毛猫の目がキラリと光ったのが、三人のやり取りをただただ見守るしか出来なかった羽理と大葉にはハッキリと見えた。
それと同時――。
「お待ち遠さまぁ~。猫ちゃん用の焼きカツオのパウチ、買ってきましたぁ~」
「ついでに冷たい飲み物も買ってきたんで、あっちの日陰で飲みませんか?」
ホワンとした声音で、何も知らない美住杏子と倍相岳斗が五人+一匹に、のほほんと声をかけた。
***
「あれ? ひょっとして僕たちがいない間に何かありましたか?」
だが、さすがというべきか。すぐさま五人の様子がおかしいことに気付いた岳斗がキョトンとして。
「あー、猫ちゃん!」
二人が、買ってきた美味しいものの気配を嗅ぎつけたんだろう。仁子たちのそばを離れて自分の足元へ一目散に走り寄ってきたふくよか三毛猫に、杏子が嬉しそうに声を掛けた。
「ねぇ猫ちゃん、今日は御守屋さん、来てないのかな?」
ふくよか三毛猫のそばへしゃがみ込むと、羽理は杏子たちが買ってきてくれたばかりの焼きカツオパウチを開封しながら猫に声を掛ける。
みんなであげなきゃ意味がないので、鶏ささみくらいの大きさのカツオの端っこをちょっぴり千切り取って手のひらに乗っけたら、猫は《《大元の方の塊》》を恨めし気にじっと見つめてきた。
「ダーメ! これは他の人からもらってね」
言いながら、すぐ横にしゃがみ込んだ仁子に開封済みのカツオパウチを渡すと、猫は羽理の手にある一口サイズのカツオ肉をウニャウニャ言いながら瞬く間に平らげて、すぐさま仁子へすり寄った。
その現金さにクスッと笑いながら羽理が立ち上がる。そんな羽理を真似て、仁子がちょっとだけカツオを千切り取ったら、すぐ横から「そのちっこい欠片、私に下さいね」と杏子が仁子の手から爪先サイズのカツオを奪うのだ。
「え、ちょっと杏子!?」
そのことに驚いた仁子へウィンクすると、「残りを五代さんと半分にわけっ子して猫ちゃんへ」と杏子が言って。
「何で私と五代くんのだけ大きいの?」
当然というべきか、仁子は明らかに戸惑っている。
「そりゃー私も杏子もお願い事、もう叶ってるからだよ? 今から叶えてもらわなきゃいけない二人からの貢物の方が大きいのは当然でしょう?」
そんな仁子へ羽理がクスクス笑いながら答えたら、杏子が「そうそう」と相ずちを打った。
そうこうしてるうち、杏子の手の中の小さな魚肉を食べ終えた猫が、ぼんやりしたままの仁子(が手にしたパウチ)へターゲットを切り替えた。
「仁子さん、貸して?」
三毛猫が、仁子が手にしたパウチへ今にも猫パンチを食らわせようとしているのを察して、仁子の手を引いて立ち上がらせると、華南部長がお供え物を奪い取った。
手が汚れるのを気にした風もなくカツオをギュッと握って真っ二つに折り千切ると、片側を懇乃介へ「ほら」と差し出す。
「え、あの……これ」
「そこのポヨポヨ三毛猫にやるんだよ。そうしたらきっと、お前にも恋人が出来る」
突然突き出されたカツオにまごつく懇乃介へ、大葉がククッと笑って猫神様のご利益を説けば、大葉の横にいる羽理も恋人を後押しするみたいに「そうそう」とうなずくのだ。
「この猫が俺にも彼女を……」
二人に言われるままふくふくニャンコへ視線を落とした懇乃介は、見詰め返してきた三毛猫から「ニャーン」と鳴かれて、突如「よっしゃぁ!」と謎の気合を入れる。その勢いのままにいきなりしゃがむと、「来い!」と猫へ向けて手渡されたばかりのカツオを突き出した。
猫は一瞬だけ懇乃介の激しい動きに驚いたみたいにビクッとしたけれど、すぐさま「ニャニャーン♪」と嬉し気に鳴いてウニャウニャ言いながら差し出されたカツオをむさぼり始める。
「こいつ、絶対『うまうま』って言ってますね」
頬を紅潮させて喜ぶ懇乃介を見て、仁子が前へ出ようとしたら、「か、噛まれたらいけないので俺がっ」と華南部長が大きな掌の上に残りのカツオを乗っけた。
「仁子さんは俺の横で一緒に」
仁子を優しい目で見下ろす華南部長を見て、羽理は(こっちにはもう、お参りは要らないかも?)と思った。