あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 あの後、ふくふくニャンコに導かれて神社近くの路地裏へ迷い込んだ七人は、何でこんなところで!? という人気のない場所であのおばあさんが多種多様な猫の御守を広げている光景に遭遇した。

 猫はいつの間にか姿を消していて、三毛柄に見えなくもないまだら模様のワンピースに身を包んだふくよかなおばあさんが、羽理(うり)たちを認めておいでおいでと手招きしてくる。
 およそ人の往来なんてなさげな場所にいるくせに、当然のように「いらっしゃい、よく来たね」と笑ったおばあさんから、何も告げていないのに【縁結びキーホルダー】を勧められた仁子(じんこ)華南(かなん)部長だ。
 おばあさんが「好きなんを選びんしゃい」と丸っこい指で指し示している色んな色柄の猫たちが二匹ずつ封入された御守を見た羽理は、(あれ?)と首をひねらずにはいられない。

 デザインが一新したのだろうか?
 羽理と杏子(あんず)のご縁を結んでくれた【縁結び根付】とは違って、仁子たちが勧められているものはひとつのパッケージの中、最初から二匹の猫各々に金具(ナスカン)がひとつずつ取り付けられていた。これではまるで、最初から二人で一匹ずつを分けて持つために作られたみたいではないか。

 もし羽理がこの出店を覗いたあの日、このデザインの【縁結び御守】しかなかったなら、きっと【健康祈願】とか【学業成就】とか【商売繁盛(はんじょう)】の御守へ逃げていただろう。
(だって私、あの時は二つに分かれていても、渡す相手のあてなんてなかったし!)
 羽理はソワソワと、岳斗(がくと)と二人、懇乃介(こんのすけ)に何ごとかを()いている大葉(たいよう)を見詰めながら、そう思ってしまった。

 だが、どうやら仁子たちは違うらしい。
「俺が頂くので、ふたりでひとつずつに分けましょう。どれにしますか? 俺は仁子さんが好きなので構いません」
 なんて華南部長が言っているのを、おばあさんが含み笑いを浮かべながら見守っている。それを横目に、羽理は(もしかしてここのラインナップ、来る人に会わせて変化してたりする?)なんて有り得ないことを思ってしまった。
 でも、〝風呂と風呂を結ぶ変な道〟が出来てしまう御守を扱うおばあさんの露店なのだ。もしかしたら本当にそうなのかも知れない。

 縁結びとしてペアになっているものを仁子へ渡そうとしている時点で、恋愛成就しちゃってない? と思ってしまった羽理に、杏子が「あの……ひょっとして私と岳斗さんがお買い物へ行ってた間に、二人のお付き合いって始まっちゃったりしましたか?」と耳打ちしてきた。
「えっと、……そういうわけじゃないんだけど」
 どう言ったらいいのかな……とつぶやきながら、懇乃介(こんのすけ)が二人に投下した、『付き合っちゃえばいいんですよ』という爆弾発言をふと思い出した羽理は、思わず口元を(ほころ)ばせる。
「ね、杏子。仁子と華南部長、どう見ても両想いにしか見えないよね? あの御守、どちらかが『付き合って下さい』って伝えられるようになるための景気づけの御守なのかもしれないって思うんだけど」
 ほっこりした気持ちでつぶやいた言葉に、杏子が「仁子、ずっと好意を全面に押し出して頑張ってましたし……出来れば最後くらい部長に思い切って欲しいです、私」と吐息を落とした。
 羽理も杏子の意見に同意だったし、あの雰囲気から察するに、このあと多分そうなるだろう。


 これにします、と華南部長がおばあさんから御守を授けてもらっているのを見るとはなしに杏子と二人眺めていたら、
「あ、あのっ」
 大葉(たいよう)と岳斗のふたりから「よし! 今度はお前が縁結びの御守、授けてもらってこい」と背中を押されて、懇乃介(こんのすけ)がおばあさんの前にまろび出てきた。

「お、俺も! 縁結びの御守が欲しいです!」
 そんなに声を張らなくても、という勢いで懇乃介(こんのすけ)がおばあさんに告げて……。
 そんな懇乃介(こんのすけ)をちらりと一瞥(いちべつ)するなりおばあさんが言うのだ。
「お前さんニャァ必要ニャい!」
「えっ」
 むしろ不要だったのは仁子と華南部長だったのでは!? という言葉が思わず口から飛び出しそうになった羽理は、慌てて手で口元を覆った。
 だが、羽理の横にいる杏子も、懇乃介(こんのすけ)鼓舞(こぶ)した大葉(たいよう)と岳斗も、羽理と同じように思ったらしい。みんな呆気にとられた顔をしている。

「あ、あの……けど、俺にはまだご縁がないんですけど」
 困惑顔で、至極まともな反論をした懇乃介(こんのすけ)に、皆一様にうなずいたのだけれど、「そりゃあお前さんが気付いちょらんだけニャけ」と意味深におばあさんが笑うのだ。
「近いうちに誰かからニャンか渡されたら迷わず受け取るんよ。分かったかいの?」
 おばあさんのセリフを聞いて、「え?」と間の抜けた声を出した懇乃介(こんのすけ)に反して、羽理たち四人は納得顔で「ああ」とつぶやいた。

 どうやらすでに、(さい)は投げられているらしい――。
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