フラグを全力で育てる系女子の恋愛事情〜なぜか溺愛されてますが〜
藤君と駅で待ち合わせて、電車で三十分ほどの距離にある水族館へとやってきた。初めて見る私服の藤君にドキドキしてたら、開口一番「そのカッコ可愛いね」って甘い笑顔で言われて、初っ端から倒れそうだった。

藤君、私のこと好きなの!?好きなんだね!

なんて脳内で意味不明なやり取りしてたら、さすがに首を傾げられた。

久しぶりの水族館は、やたらとキラキラして見える。最初は緊張してたけど、五分も経たないうちに私は魚に夢中になった。

「見て藤君、イワシの大群凄いよ!グルグル回ってる!」

「確かに迫力あるね」

「ねぇねぇ見て!スナメリ可愛い!触ったらツルツルしてそう」

「優しそうな顔してる」

「ぎゃ、この魚猛毒だって!めっちゃトゲトゲ」

「ハナミノカサゴだって。見るからにヤバそうだね」

相手が藤君だってことも半分忘れて、高一とは思えないはしゃぎっぷりで館内をチョロチョロ動き回る。

藤君はそんな私に嫌な顔ひとつしないで、一緒に笑ってくれた。

「見て藤君!ナマコ触れるって」

「触ってくる?」

「くる!」

意気揚々と水面に手を突っ込む私。周りはキッズだらけで、ナマコエリアではしゃいでる女子なんて私しかいない。

「わぁ、気持ち悪!」

「相崎さん、平気なんだね」

「ううん、気持ち悪いよ!アハハ!」

ナマコのヌルひや加減が気持ち悪くて、ついつい触っちゃう。

「お姉ちゃん、凄い!」

私の隣にいた四、五歳位の男の子が目をらんらんに輝かせながら、私の手の中にいるナマコを見つめていた。

「触ってみる?」

「でも…僕怖い」

「私が持ってるから大丈夫。ほら、指でチョンって」

恐る恐る、小さな指でナマコをプニッと突く。

「わ、わぁっ!」

「面白い?」

「うん!ありがとう!」

「後で手、ちゃんと洗ってね」

ナマコをそっと海水に戻すと、私も手洗い場へ向かう。男の子の両親らしき人達からお礼を言われたので、私も笑顔で会釈した。



「相崎さん、全力で楽しんでるね」

私がカバンからハンカチを出す前に自分のを差し出してくれる、できる男藤君。

「俺のこと忘れてない?」

そんな台詞を口にしながら、表情は柔らかい。

「そっ、そんなことないよ?」

正直、藤君より海の生き物達見てましたごめんなさい。

「相崎さんって、やっぱり相崎さんって感じ」

「なにそれ」

「最初に話した時から、全然印象変わらないなって。もちろんいい意味で」

「そ、そうかな」

「相崎さんが楽しそうで良かった」

仮にも男女二人で来てるのに、藤君そっちのけでナマコ広場に手突っ込んじゃうような女なのに。

そんな顔してそんなこと言われると、心臓がギューッと痛くなる。

「ていうかこれでも俺、緊張してるからね」

「全然見えない」

「見せないようにしてんの」

待ち合わせ場所に立つ藤君はキラキラに輝いてて、そこに駆け寄るのを一瞬ためらってしまったくらいなのに。

そんな藤君が、私に緊張してるなんて。

「俺もめちゃくちゃ楽しいや」

はにかみながら言われた瞬間、胸になにかが突き刺さった。
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