可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
可憐な花と黒魔導士
 怖い…怖いんですけどっ!

 麗しいお顔をずいっと近づけられ深紫の瞳にじっと見つめられることに、なかなか慣れない。
 
 ハインツ先生がわたしのことをガン見する理由は理解している。
 だから目を逸らすことも許されないのだ。

 魔導士養成学校の生徒たちは、ハインツ先生の研究室でわたしたちが顔をくっつけて熱く見つめ合っていると噂しているけれど、冗談じゃない!
 そんなロマンチックな要素は欠片もない。
 
 ハインツ先生は、わたし――リナリア・ローレンスではなく、この身に宿る魔物を監視・観察しているのだけなのだから。


 わたしの体には魔物がとり憑いている。
 とんでもなく極悪な魔物だったらしい。
 その経緯を全く覚えていないのは、とり憑かれた時から遡ること4年間の記憶を失ってしまったからだ。

 「記憶喪失」というのは正確な表現ではない。
 実際は、わたしの体内の時間が4年前に巻き戻ってしまったために、その間に経験したことや記憶がなくなってしまったのだ。

 何でも、その魔物が凶悪すぎて現代魔術では完全に浄化することが不可能と判断した魔導士たちは、未来の魔術の発展に期待して「封じ込め」を選択したのだという。
 しかし魔物の力が強すぎてそのままの状態で封印することすら困難で、魔物が生まれたと推測される4年前まで時間を巻き戻して赤ちゃんの状態にして封印する予定だったようだ。

 わたしは当時22歳で、白魔導士としてそのミッションに参加していた。
 そして手違いが生じて魔物と共に時間が巻き戻った挙句、魔物はなんとわたしの体内に棲みついてしまったというわけだ。

 どのような手違いが起きたのかは「機密事項である」という理由から詳細を教えてもらっていない。
 当事者であるにもかかわらずだ。


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