原田くんの赤信号
 この階段には良い思い出がない。

 わたしに対して『好き』の『す』の字もない男友だちを恋の相手として薦めてきたり、プランも何もないのに「二月十四日の朝から遊ぼうよ」と誘ってきたり、「俺が瑠美と会いたい理由に心当たりないの?」とナゾナゾに近い質問をしてきたり。

 変な原田くんが、更に変になる場所だ。

「瑠美さあ……」

 今日のふたりの立ち位置は、原田くんがわたしの二段上。

「もしかして、福井の家わかったの?」

 犯罪者のような形でゲットした福井くんの住処に、胸は張れぬ。
 意図せずとも、カタコトになってしまうわたし。

「エーット……ドウシテソウオモウノ?」
「いきなり福井の家族構成なんて聞いてたから、変だなと思って」
「ス、スルドイネ」
「いいから答えろよ。お前、福井の家知ったの?十四日に行くつもり?」

 原田くんは、怒っている。というか福井くんの話になると、いつもムキになる。こんな態度を取っておいて、わたしのことを好きじゃないと言うのだから、おかしいのだ。

「うん、十四日行くよ。わたしは福井くんの家に」

 サイドの髪を耳にかけながら、ドヤ顔でそう言った。そんなわたしに、原田くんは愚問を飛ばしてくる。

「なにをしに?」
「チョコをあげに」
「なんで」
「す、好きだから」
「どうしても行くの?」
「どうしても行く」

 一旦、少しの()を空けて。

「毎回毎回、お前はなんなんだよ」

 と言われた。

「え、毎回?」

 何を言っているのだろう、とわたしは思った。
 それは誰でもそうだろう。何度も同じことを聞かれたら、毎度同じ答えになる。そんなの当たり前だ。

「じゃあさ、瑠美」

 でも原田くんは変だから、当たり前な質問の後には、意味不明な質問をしてくるのだ。
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