原田くんの赤信号
「瑠美が福井の家に行くんだったら、俺が死ぬって言ったらどうする?」

 それも、いつもよりずっと真面目な顔で。

「俺が死ぬって言っても、瑠美は福井に会いに行くの?」

 真剣に言ってくる。

 今日も今日とて、誰も通ってはくれない東階段。ピリッと張り詰めた空気を打破してくれる人などいやしない。

 原田くんは変な人だ。
『くだらない理由で命をかけられる、天気博士で意地悪で頭の良いしつこい変な人』だ。

 何度も言う。原田は変な人。
 だからこんな質問、横流しでもいいくらいだ。

「原田くんが死ぬなら行かないよ」

 若干面倒くさくなったわたしは、無表情でそう答えた。

「え」

 原田くんの目が、丸くなる。

「っていうか原田くんじゃなくても、誰かがわたしのせいで死ぬなら行かない。そんなの、みんなそうでしょ」

 でもそんなこと、現実には起こり得ない。だからわたしは、語気を強める。

「だからわたしを、福井くんのところに行かせてよっ」

 なぜなら誰も、死なないのだから。

「二月十四日、福井くんの家に行ってわたしはチョコを渡す。それでいいでしょう?」

 キリッとした態度で決定事項を告げるのに、変な人原田くんには通じない。
 わなわなと身を震わせて、大きな声を出してくる。

「なんでだよ!瑠美が福井の家に行くなら、俺は死ぬって言ってるんだぞ!?それなのになんで福井の家を選べるんだよ!」

 涙を溜めて反論してくる原田くんに、束の間怯え、気圧されそうになる。

「瑠美は俺が死んでもいいのかよ!」

 変な人は、妄想で作った変な理由で泣いた。

「友だちが死ぬんだぞ!?」
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