原田くんの赤信号
「わ、やべっ!」
「きゃ!」

 床に広がる炭酸水。スマートフォンのように拾うことができないそれをどうしようと、しばし体が静止した。

 原田くんは変な人だ。
『くだらない理由で命をかけられる、天気博士で意地悪でなんでもすぐ落とす、頭の良いしつこい変な人』だ。

「ご、ごめんっ。瑠美にかからなかった!?」
「大丈夫。原田くんこそ平気?」
「俺も平気っ」

 素早く駆けつけてくれた店員さんのおかげで、床はすぐに元通り。炭酸水の代わりにと、紙コップに入った水まで持ってきてくれた。

 落ち着きを取り戻した原田くんに、視線を向ける。

「どうしたの原田くん。さっきから落としてばっか」
「ははっ。ほ、ほんとだな……」
「大丈夫?」

 原田くんにまた変な肩書きが増えないうちに、さっさと食べ終え帰ろうと、わたしは咀嚼のスピードをあげた。

 炭酸水もラーメンも失ってしまった原田くん。今度はベラベラと喋り出す。

「大好きな人のお嫁さんって、それって福井の嫁ってこと?」
「ゲホッ」

 その問いには、私がむせた。
 ペーパーナプキンで口元を拭いながら、わたしは言う。

「ば、ばか言わないでよっ。福井くんとは付き合ってもないし、たとえ、たとえ付き合えたとしても結婚なんてっ、ええ!?」
「でも福井のこと好きなんだろ?もし福井が瑠美の告白オッケーして、長いこと付き合って『結婚しよう』って言ってきたらどうすんの?」
「それはその、ええっと……」

 ほんの少しでも妄想してみれば、たちまちニヤけた。
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