原田くんの赤信号
 脳が機能しない、停止した思考は戻らない。

「初めて瑠美が死んだ時は、翌朝のニュースで知った。放心状態で学校に行くと、担任の先生が、泣きながら教室に入ってきたんだ」

 それなのにもかかわらず、耳はきちんと機能しているから、原田くんの話は確と聞こえてしまう。

「みんなざわついてたよ。だって先生が泣いてるんだもん、(だい)の大人が泣いてるんだもん。ニュース見てなかった奴等は『え?』って顔してた。そ……そしたら先生言ったんだ。『昨日、交通事故にあって大原さんが亡くなりました』って。『即死でした』って」

 時折言葉をつかえながら、辛そうに話す原田くん。彼の突拍子もないストーリーを耳にしているうちに、その内容を理解したいと強く思った脳が、段々と思考を取り戻していく。

「その日の夜……瑠美のお通夜に仲の良い奴みんなと行ったんだ。みんな、超泣いてた。美希なんか、今すぐここで吐くんじゃないかってくらいわんわん泣いてた。ゲホゲホむせながらさ、とてもじゃないけどそんな美希の姿、見てられなかったよ」

 わたしのお通夜。
 美希ちゃんの大泣きする姿。

 原田くんが言葉を紡ぐたび、それは脳内で映像化され、悲惨な状況が浮かび上がる。

「瑠美の親族の好意でさ、俺等高校の連中も、瑠美の棺桶の中に、なんでも入れていいことになってたんだ。俺は入れるものなんてなかったから、なにも持って行かなかったけど、女子たちはそれぞれ手紙とか、折り紙で作った花とか持ってきてた。そんな中、福井も手に紙袋を提げてやってきたんだよね」

 福井くんが、わたしの棺桶に入れたいもの。それは──

「それは今……瑠美が持ってるそれと大きさは同じ。だけど青色のやつ。その中に、文房具セットみたいの入れてきた」

 わたしはふと、自分の手元に目を落とした。この紙袋の中に、福井くんが文房具セットを入れる?
 どうして福井くんが、亡くなったわたしに文房具セットをくれるのだろうと考えていれば、原田くんがその続きを話す。
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