原田くんの赤信号
「俺、福井に聞いたんだ。『それなに』って。そしたら福井言ってた。『昨日瑠美からバレンタインチョコ貰ったから、そのお返し』って。『一ヶ月早いけど、ホワイトデー』って。その時あいつ、こうも言ってた。『瑠美は俺が青好きだって思ってたみたいで、全部青色で揃えてくれてたんだよ。でも、どうしてそう思ったんだろう』って」
福井くんがわたしの棺桶へ、青色の紙袋を入れたところまでをイメージして、わたしは一度、整理する。
嘘でしょう、まさか、とは思うけれど、今作ったでたらめな話だとも思えないほど、原田くんの話には現実味があった。
わたしがもし死んでしまったら、きっと美希ちゃんは吐くほどに泣くだろう。
優しい福井くんは、律儀にバレンタインデーのお礼をくれるだろう、と。そう感じてしまった。
ぐらつく瞳で原田くんを見やる。何も言えずにいるわたしに、更に話を続けるのは彼。
「棺桶に入ってる瑠美の頬に触ってみたんだ、俺。触れた瞬間、すごく冷んやりして、ああ、人間って死んだらこんなにも冷たくなっちまうんだって思った。友だちが死ぬなんて初めての経験だったし、なんかすっげえ悲しかったし、お通夜の後に家へ帰って、ひとりで超泣いた。瑠美との大して多くない会話を全部思い出して、ずっと泣いてた。部屋の机で泣いてる間に、疲れて寝ちゃうくらいにさ。そしたら……」
原田くんの瞳が広がった。
「次の日起きて学校行ったら……瑠美、いるんだよ。昨日死んだはずの瑠美に『おはよー』って言われた。奇跡だと思った、よみがえったんだと思った」
これはやっぱり作り話かもしれない。だってそんなことあり得な──
「あり得ないだろう?そうなんだよ、あり得なかったんだよ生き返るなんて。スマホの日付けを見たらそうじゃないんだってすぐにわかった」
原田くんは、がっくりとその瞳を元に戻した。
「……そこには『二月十二日、金曜日』って表示されてた。これもあり得ないんだけどさ、瑠美が死ぬ二日前に戻っただけだったんだよ。瑠美はもう、バレンタインデーの買い物を美希としたんだって浮かれ気分で女友だちに話してた」
「そんなこと……」
「信じられないよね」
「う、うん……」
「俺も信じられなかった、夢かと思った。だからその時はなにもしなかった」
「うん……」
「でも、そしたら瑠美はまた死んだんだ」
その言葉で、またもや映像化されていく原田くんの物語。
「二月十四日バレンタインの日、福井にチョコをあげに行った帰りに、瑠美はまた交通事故にあったんだ。瑠美の死を知らせる先生のセリフも、美希の泣き方も、福井の紙袋の中身も、そして、棺桶の中の瑠美の顔についた傷も冷たさも、全部全部一緒だったっ……」
悲痛なお通夜。
原田くんはやり切れなさそうに、再び泣いていた。
福井くんがわたしの棺桶へ、青色の紙袋を入れたところまでをイメージして、わたしは一度、整理する。
嘘でしょう、まさか、とは思うけれど、今作ったでたらめな話だとも思えないほど、原田くんの話には現実味があった。
わたしがもし死んでしまったら、きっと美希ちゃんは吐くほどに泣くだろう。
優しい福井くんは、律儀にバレンタインデーのお礼をくれるだろう、と。そう感じてしまった。
ぐらつく瞳で原田くんを見やる。何も言えずにいるわたしに、更に話を続けるのは彼。
「棺桶に入ってる瑠美の頬に触ってみたんだ、俺。触れた瞬間、すごく冷んやりして、ああ、人間って死んだらこんなにも冷たくなっちまうんだって思った。友だちが死ぬなんて初めての経験だったし、なんかすっげえ悲しかったし、お通夜の後に家へ帰って、ひとりで超泣いた。瑠美との大して多くない会話を全部思い出して、ずっと泣いてた。部屋の机で泣いてる間に、疲れて寝ちゃうくらいにさ。そしたら……」
原田くんの瞳が広がった。
「次の日起きて学校行ったら……瑠美、いるんだよ。昨日死んだはずの瑠美に『おはよー』って言われた。奇跡だと思った、よみがえったんだと思った」
これはやっぱり作り話かもしれない。だってそんなことあり得な──
「あり得ないだろう?そうなんだよ、あり得なかったんだよ生き返るなんて。スマホの日付けを見たらそうじゃないんだってすぐにわかった」
原田くんは、がっくりとその瞳を元に戻した。
「……そこには『二月十二日、金曜日』って表示されてた。これもあり得ないんだけどさ、瑠美が死ぬ二日前に戻っただけだったんだよ。瑠美はもう、バレンタインデーの買い物を美希としたんだって浮かれ気分で女友だちに話してた」
「そんなこと……」
「信じられないよね」
「う、うん……」
「俺も信じられなかった、夢かと思った。だからその時はなにもしなかった」
「うん……」
「でも、そしたら瑠美はまた死んだんだ」
その言葉で、またもや映像化されていく原田くんの物語。
「二月十四日バレンタインの日、福井にチョコをあげに行った帰りに、瑠美はまた交通事故にあったんだ。瑠美の死を知らせる先生のセリフも、美希の泣き方も、福井の紙袋の中身も、そして、棺桶の中の瑠美の顔についた傷も冷たさも、全部全部一緒だったっ……」
悲痛なお通夜。
原田くんはやり切れなさそうに、再び泣いていた。