原田くんの赤信号
「え!くれるの!?バレンタイン、瑠美が俺に!?」
「う、うんっ」

 鮮やかな緑色のセーターを身にまとった福井くんは、サプライズにも似たわたしの訪問に、切れ長な瞳をひとまわり大きくさせた。

「ありがとう!しかもこのラッピングすっごくいいじゃん!俺、緑好きなんだよねぇー」
「ほ、本当!?青じゃなくて!?」
「青もまあまあ好きだけど、一番好きなのは緑かな」

 原田くんの言ったことは、正しかった。

「よかったぁー」

 爽やかすぎる福井くんの反応に、さっきまで抱いていた緊張が、少しずつ緩んでいく。
 事故だの死ぬだのさんざん言われたけれど、こんなほのぼのとしたやり取りの後には、平和しか待ち受けていないだろうと思えた。

「来月のホワイトデー、お返しするね」

 ニコッと笑い、福井くんは言った。わたしは咄嗟に首を横に振る。

「気にしないでよ、ホワイトデーなんか」
「なんでよ、そんなの失礼だろ。義理でもなんでも、お返しするのが礼儀だよ」

 その言葉に、わたしは一瞬固まった。そんなわたしを見て、わかりやすくふためき出したのは福井くん。

「え!ご、ごめん!もしかして本命だった……?」

 この質問は、告白の大チャンスだ。ここで「本命です」と言えばそれはもう、『好き』を意味する言葉になる。
 入学した時からずっと胸へ大事にしまっていた、福井くんへの想い。
 それをようやく口にできる日が、とうとうきた。

 唾をごくんと飲んで、胸元に手をあてて、わたしは口を開く。

「義理、だよ」

 告白するのが恥ずかしかったから。
 そんなんじゃなくて、これがわたしの本心だった。

「もうっ、福井くんったら。義理に決まってるじゃんかーっ」

 勇気を出して、福井くんの肩をパチンと叩いた。
 福井くんは「うっわ」と言うと「今の俺、超ダサいじゃん」とはにかんでいた。

「そ、そうだよね、義理だよね。あははっ、俺まじカッコ悪い」
「福井くんはモテるから、もっと可愛い子に本命チョコ貰えるでしょ?」
「どうだろ。中学の時は全然だったしなー」
「ええ、そうなの?」

 あははと笑い、この時間を楽しく思う。
 福井くんへの恋心が、いつの間にやらわたしの中で消えていたことに気付かされた瞬間だった。
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