原田くんの赤信号
 福井くんの家に行くよ。と、何度も言うわたしには、「俺が死んでも行くの?」と聞いてきたな。変だから。

 なんで福井の家を選べるんだよ!
 友だちが死ぬんだぞ!

 わたしたち以外誰もいない東階段でそう叫ばれ泣かれた時は、原田くんの想像力に感心したな。

 あ、そうそう。原田くんの変がいきすぎて、最低なことを言われたこともある。

 もし最後のプレゼントになるとしたら、福井の好みのものを渡したいだろ?

 最後のプレゼント、という発言は、まだ根にもっているんだ。だってそんな言葉、まるでもう二度と、渡せないみたいじゃないか。

 もう二度と、渡せない。

「え……?」

 電車を降り、福井くんの家までの最後の横断歩道を渡った時、わたしは後ろを振り返る。

「もう、渡せないの……?」

 青が点滅し出して、次第に赤に変わる信号機。

「ねえ、原田くん……」

 原田くんはいない。
 空っぽに見えた空間に、わたしは呟いた。

「明日は原田くんに、渡したいものがあるんだよ……」
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