原田くんの赤信号
 病院に駆け付けたのは、わたしのお母さんと、原田くんのご両親。
 救急車での同乗中、わたしは終始泣いていた。

 待合室で原田くんのご両親と目が合えば、再び涙は溢れ出る。

「ご、ごめんなさい…原田くんのお父さんお母さん……わたし、わたしっ……」

 原田くんを、殺してしまう。
 わたしの命を必死で守ろうとしてくれた原田くんの大切な命を、わたしが奪ってしまう。

 嗚咽を漏らすわたしの隣、お母さんは彼等に頭を下げた。

「まだわたしもあまり状況を把握できていないのですが、彼……翔平さんが、娘を庇ってくれたと伺いました。何と申せばいいのかわかりません……まだ蘇生を試みている最中だというので、祈ることしか……」

 お母さんもわたしと同様に、涙していた。

 原田くんの両親は青ざめ、取り乱していて、わたしの言葉もお母さんの言葉も何ひとつとして受け入れられない状態だった。

「翔平っ翔平っ……」と息子の名前を口にして、夫婦で支え合うように立ち尽くし、ただひたすらに、奇跡を願っていた。

 朧げな頭に朧げな視界。わたしの滲んだ世界に映る人たちはみんな、原田くんを失うことを恐れている人たちだ。

 人が死にいくことは、こんなにも辛い想いをするのだと気付かされる。助けたいのに、助けてあげられない。無力な自分を責めることしかできずに途方に暮れる。
 原田くんはもう何遍、この感覚を味わってきたのだろうか。たったひとりきりで、何度この想いを抱えてきた?

 瑠美死ぬな、俺は瑠美が好きだ。

 原田くんがくれた最後の言葉が、頭の中で反芻される。

 瑠美死ぬな、俺は瑠美が好きだ。

 ねえ原田くん。わたしは明日、あなたに渡したいものがあるんだよ。
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