先生、優しくしないで
イギリスに来た頃は有紗に友達という存在はいなかった。だが、ウィリアムと話せるようになってからは、彼に勇気をもらい、少しずつクラスメートたちと話せるようになった。そのおかげで、友達が少ないながらもできたのだ。

「課題やってるの?まだ提出期限は先よ?」

「早めに終わらせておきたくて」

「日本人って真面目ね〜」

「私、それほど真面目じゃないよ?」

ローズが有紗の隣に座り、かばんの中から栞の挟まれた本を取り出す。どうやら彼女は課題をするつもりはないようだ。有紗はその様子をチラリと見てから、また課題を進めていく。

有紗の隣にローズが座ってから一時間ほどが経っただろうか。有紗の肩をローズが軽く触れる。

「有紗、もう五時を過ぎてる。そろそろ帰りましょう」

「えっ、もうそんな時間!?」

一瞬で過ぎてしまう時間に有紗は驚き、時計を見る。壁にかけられた時計は、ローズの言った通り五時を指していた。いつの間にか、図書室は夕焼けのオレンジ色に染まっている。
< 10 / 26 >

この作品をシェア

pagetop