先生、優しくしないで

課題はまだ完成していない。だが、あまりにも遅くなると家族に心配をかけてしまう。有紗はペンケースや課題をかばんに入れ、ローズと共に図書室を出る。刹那、前方から走ってきた女子生徒と思い切りぶつかってしまった。

「あっ、ごめんなさい！」

よろけてしまった有紗が謝ると、「こちらこそごめんなさい」とずっと俯いていた女子生徒は謝りながら顔を上げる。有紗とぶつかったのは、この学校一の美少女とも言われているソフィアだった。

「ごめんなさい。前をよく見ていなくて……」

そう話すソフィアの目は、赤くなって腫れている。頬には何かが伝ったような痕があった。泣いた後だというのが嫌というほどわかる。

「ソフィア、大丈夫？」

心配になり有紗が訊ねると、ソフィアは黙り込み、そのまま図書室の中へと入ってしまう。少々乱暴に扉が閉められ、有紗はその扉を呆然と見つめていた。

「あの子、告ったのよ。ウィリアム先生に。結果は見ての通りだったけど」