先生、優しくしないで

ローズはそう言い、廊下を歩いていく。有紗はその場から動くことができず、ただかばんの取っ手を握り締めたまま立ち尽くす。

「……やっぱり、ダメだよね。先生に恋なんて……」

教師と生徒の恋愛が叶うなど、きっと少女漫画の中だけの話だ。そう考え始めると、有紗の頭の中にウィリアムの顔が浮かび、胸が苦しさを増し、目の前がぼやけてしまう。

この想いをこれほどまでに伝えたいと思ったことはない。だが、それはウィリアムにとってきっと迷惑になってしまうのだろう。彼に自分は釣り合わない。唇が震え、ただ悲しくなっていく。

「ッ！うっ……ああ〜……」

まるで小さな子どもが迷子になってしまった時のように、ただ頼りない声が涙と共に口から漏れる。乱暴に涙を拭い、その場にしゃがみ込む。

泣き止んだ後はこの恋を諦める、そう決めながら有紗は泣き続けた。



ウィリアムに対する恋を諦める、そう決意してから有紗はウィリアムを避けることを決めた。優しくされてしまうと、その度に彼を好きになってしまうからだ。