先生、優しくしないで
いつもならば、ウィリアムを見かけると挨拶をしたり、話しかけたりしていた。だがそれをやめ、授業中にわからないところを質問するだけにした。その距離は、まるで有紗がイギリスに来たばかりの頃に戻ったようで、有紗の胸が痛む。

「ダメ！先生への気持ちを諦めなきゃいけないんだから！」

泣いてしまいそうになるのをグッと堪え、もう気持ちは忘れてしまったかのようにローズと話す。ローズはあの日以来、ウィリアムのことは何も言ってこない。彼女なりの優しさだろう。

「数学の小テスト、来週だったよね。有紗、よかったら教えてくれない？」

「いいよ。放課後図書室でいい？」

そんな話をしながら歩いていると、前方からウィリアムが歩いてくる。その周りには大勢の女子生徒が彼を取り囲むようにして歩いていた。楽しげに話し、ウィリアムもニコニコとしている様子を見て、有紗の足はその場で止まってしまう。

「有紗？」

ローズに名前を呼ばれるが、有紗は反応することができなかった。胸が苦しく、このままここにいては泣き出してしまう。だが、有紗はウィリアムを見つめてしまう。
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