先生、優しくしないで
「有紗、すまないがこれを教室まで運んでおいてくれないか?」

「わかりました」

全員分のノートを両手に抱え、有紗は職員室から離れた教室へと向かう。ずっしりと重さが両手にのしかかり、有紗は少し早足になった。

「結構、重たいな……」

口から日本語が出る。授業が終わり、放課後となった廊下には生徒は誰もいない。遠くから部活動をする楽しげな声だけが響いていた。

有紗が階段に足を置いた時、「有紗、コニチハ」と上から声をかけられる。顔を上げれば、そこにはウィリアムがおり、階段をニコリと微笑みながら降りてきた。胸が高鳴り始め、有紗は逃げ出したかったものの、ノートを抱えているせいでできない。

「教室まで運ぶの?半分持つよ」

有紗が断る前にウィリアムはノートの半分以上を奪うように持つ。善意でしてくれることを「やめてほしい」とは言えない。有紗は心に傷を感じながらも、甘えることを決めた。

「すみません」

「謝る必要はないよ。さあ、早く運ぼう」
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