先生、優しくしないで
ポツンと立っている有紗の肩を、誰かがポンと叩く。振り向けば、有紗をダンスに誘った男子生徒がいた。

「有紗、まだダンスの時間まで三十分以上あるし、何か食べていてもいいかな?」

「……いいよ」

有紗がそう言うと、男子生徒は走って料理が並べられている場所へと向かう。そして、取り皿にローストビーフやカップケーキなどを盛り付け、がっつくように食べ始めた。

(ウィリアム先生だったら、きっと一緒に食事に誘ってくれるんだろうな。パートナーからずっと離れることはないはず)

会場を見回すも、ウィリアムの姿はない。タキシードを着た彼がこの場に姿を見せたなら、きっと多くの女子生徒が見惚れていただろう。

(ダメだな、私。ウィリアム先生のことばっかり考えちゃう)

立ち止まっていても、ウィリアムのことを考えてしまうだけだ。ダンスが始まるまでの間、有紗はブラブラと歩くことにした。

ドレスやタキシードを着こなした生徒たちは、みんなお喋りを楽しんだり、食事を楽しんだりしている。ローズも、ダンスを踊る相手と楽しそうに笑っているのが見えた。
< 23 / 26 >

この作品をシェア

pagetop