先生、優しくしないで
（みんな、楽しそうだな）

賑やかな声を聞きながら、パーティーホールの出入り口付近までやって来た。その時、何者かに腕を掴まれる。

「えっ！？」

驚いた有紗だったが、その何者かが有紗の腕を掴んだまま走り出したため、有紗も足を動かさざるを得なくなってしまう。だが、恐怖などは全く感じなかった。その温もりが誰のものなのか、わかっていたからである。

「ウィリアム先生」

賑やかなパーティーホールから遠く離れた廊下の片隅で、有紗は自分を見下ろしているウィリアムの名前を呼ぶ。タキシード姿の彼は想像以上に華やかで、有紗の胸が高鳴ってしまった。

「どうして私をここに？私、私はあなたにーーー」

大嫌いと言った、そう戸惑いながらも言いかけた有紗の唇に、ウィリアムの人差し指が触れる。

「有紗、君に謝らないといけないことがある。中途半端な優しさで君を傷付けてしまって、本当にごめん。そして、自分勝手な僕を許してほしい」

ウィリアムはそう言うと、有紗の腕を引いて抱き締める。突然のことに、有紗はますます訳がわからなくなってしまう。
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