フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました

 彼から電話がかかってくるのは初めてだ。今までは、店の中で会った時に話をしていたから。

わたしは、ためらいながら、通話ボタンにそっと触れた。

「……はい」
『……先輩? 朝比奈先輩ですか?』
上月くんの声は、少しくぐもっていて、どこかためらいがちだ。それでも、わたしは彼の声でとても、とても安心してしまった。

『うん……。そうだよ、上月くんだよね。おつかれさまです……さっきはほんとにごめんね』

彼は電話の向こうで心底ほっとしたような声を出した。

『よ、かった……! 電話、変わってたらどうしようかと思いました』
「変えてない、って、前に言ったでしょ」
『そう、ですよね。でも、不安で……。あ、それよりも、先輩、大丈夫ですか?』

くらり、と視界が歪む。飛び散るオムライス、放線を描いたステンレスのスプーンがフラッシュバックする。
わたしは、平静な声を出すことに、意識を集中した。

「だ、大丈夫、って、なにが?」
『さっき……。夕方。すごく、辛そうな顔してたでしょう』

わたしは携帯を握りしめた。
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