フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
「そ、そうかな。たしかに、少し、ムカッとしちゃったけど、つらい、とかでは……」
精いっぱい取り繕った声をだす。
『本当に? あの顔、先輩が三年のときに、ふざけて楽器を壊した後輩に怒り出す直前の顔と同じでしたよ』
「な、なにそれ……」
画面の向こうで、突然昔のわたしのエピソードを話す彼に呆気に取られて、言葉に詰まってしまう。
『覚えてないんですか? ほら、楽器壊したのに、ヘラヘラしてた奴らがいたでしょう。あの時の先輩、めちゃくちゃ怖かったです。あれとおんなじ』
なにそれ。
「なにそれ、何でそんなこと、いま、関係ない……のに。なん、で」
たがが外れたように、瞳から涙が溢れ出る。
『俺、たくさん覚えてるよ。ずっと先輩について回ってたでしょ』
彼はまるで尻尾を振る犬のように、わたしの近くにいた。
『先輩……。莉子さん。泣いてるの?』
「ないて、ない……っ」
「どうしたの、何かあった? ね、莉子さん」
その声は、先輩を気遣う後輩ではない。上月和真という男が、傷ついた女性をあたたかく包み込んでいこうとする声だ。こんなことをされたら、今のわたしは自分で立っていられなくなる。