旅先恋愛~一夜の秘め事~
『将来を考えるような人がいるならもっと早く教えてちょうだい。お母さんだけでも会いに行ったのに』


母は少し不満気に声を漏らし、夫になる人について聞きたがった。

親会社の副社長だと告げるとしばしの沈黙の後、失礼な発言をされた。


『……騙されているわけじゃないわよね?』


どうやら恋に縁遠い娘が詐欺にでもあったのではと心配しているようだった。

私も逆の立場だったら同じように確認する、と苦笑しつつ返答した。


『間違いなく本人だから大丈夫。嘘だと思うなら本社に電話してもいいし、彼とふたりで撮った写真も送るわ』


せめて今すぐ挨拶に伺えないならと彼の提案で写真を撮ったのだ。

『顔も知らない相手に大事な娘を嫁がせたくないだろう』と当然のように話す姿に、暁さんの思いやりと温かさを感じた。


『後日、暁さんからも挨拶の電話をすると伝えてほしいと頼まれたの。今すぐは無理だけどお父さんとお母さんの予定を確認して、日程を決めてそっちに行くから』


『わかったわ。それでこんなに急に入籍する理由はなに?』


さすが、我が家で一番察しがよく、勘の鋭い母だ。

暁さんにきちんと先に妊娠について説明すると何度も言われていたのだが、断った。

なにか罪を犯したわけでもないのだし、ふたりで授かった命なのだから、どちらが報告してもいいはずだ。


『ええと、赤ちゃんを授かって……』


『あら、おめでとう、よかったわね』


あっさりした反応に拍子抜けする。
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