旅先恋愛~一夜の秘め事~
『驚かないの?』


『驚いたわよ。あなたの旦那様が連絡をくださって、報告してくれたときに。お父さんと一緒に叫んじゃったもの』


フフと母がいたずらが成功した子どものように可笑しそうに告げる。

母の発言に逆に私が驚愕した。

どうやら暁さんは少し前に両親へ結婚の挨拶と妊娠の報告をしてくれていたらしい。

婚姻届を書いた日に何度も両親の連絡先を聞かれた理由が今、わかった。


『直接挨拶に伺えないうえに、署名だけ頼んで先に入籍すること、あなたの妊娠も含め勝手な振舞いばかりで申し訳ないってそれは丁寧に話してくださったのよ』


『知らなかった……』


『体調を崩しているあなたには内緒にしてほしいって頼まれたの。体は大丈夫なの? 大事な時期なんだし、無理をしたらダメよ。これからはあなたと産まれてくる子どもを全力で守りますっておっしゃってたわ』


母の穏やかな声が胸に染み込んでいく。

暁さんの深い思いやりに胸がいっぱいになった。

きっと両親に話す、私の小さな躊躇いに気づいて先回りをしてくれたのだろう。


『幸せにね。私たちが望むのはそれだけよ。婚姻届の署名はすでに済ませて送り返したから』


視界が滲みだし、頬を涙が伝う。

その後父とも話をして、ますます涙が止まらなくなった。

この日感じた、温かく幸せな気持ちはきっと一生忘れないだろう。
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