旅先恋愛~一夜の秘め事~
6.「逃がさないと言ったよな?」
細く眩い光に目が覚めた。

はっきりしない意識の中で瞬きし、視線を動かす。

周囲は薄暗く、まだ夜明け前なのかと考える。

腕を持ち上げようとして、うまく動かない事態に頭を捻ると、お腹のあたりに長い腕が絡みついているのに気づく。


「あ……」


思わず声が漏れた。

ぼんやりしていた記憶が一気に蘇っていく。


そうだ……私、暁さんと……。


私を抱きしめる腕はむき出しで、背中に伝わる温かな感触から素肌だとわかる。

私も衣類を身に着けていない。

体のべたつきがないので、ある程度整えてくれたのだろう。

何度も彼を受け入れた体は気怠く重いが、心の中はとても温かく切ない。

心惹かれた人に抱かれて幸せなはずなのに、苦しい。


彼にとって、自分が唯一の存在だと勘違いをしてしまいそうになるくらい情熱的な時間だった。

でも、そんな濃密な情事の最中でさえ、彼は私への感情をなにひとつ口にしなかった。


私も、抱える恋情を話さなかった。


胸に溢れる気持ちは幾度となく漏れそうになったが、伝えるのを躊躇った。

立場の違い、出会った時間の短さ、言い訳はたくさんあるけれど、一番の理由はこの気持ちを軽く思われるのが怖かった。


麗に背中を押してもらったのに、肝心な言葉を伝えれていない私は臆病で弱虫だ。
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