旅先恋愛~一夜の秘め事~
「……怖く、なったから」


「は?」


「暁さんと私では住む世界も立場も違いすぎます。過ごした時間も短いし、旅先という非日常で冷静さを失っているのかもしれないと思ったんです」


「だから?」


「……暁さんも、そうかもしれないと考えたんです。朝になって、拒絶されたらと怖くなったんです」


無言で私を凝視し、顎から手を離す。

その後渋面を浮かべ、自身の髪を気だるげにかき上げた。


「なんでそんな考えになる? 離さないと言っただろ」


「でも……」


「お前が欲しいと、全部を俺にくれと願ったのは本心だ。立場を気にするくらいなら最初から抱いたりしない」


長い指が私の髪を梳き、頬に微かに触れる。

誘惑するような眼差しを向けられ、全身に甘い痺れがはしる。


直後、彼の形の良い唇が私の唇を塞いだ。


「んっ……!」


唇の形をたどるように甘く、深く重ねてくる。

体をきつく抱き寄せられ、目を見張ると彼の伏せられた長いまつ毛が映った。

彼の前髪が額に触れ、漏れる吐息と熱い唇に頭の奥が痺れていく。

角度を変えて何度も口づけられ、止まっていたはずの涙が再び滲みだす。

吐息の触れ合う距離のまま、彼が少しだけ唇を解放する。

私の涙を唇で拭い、頬と耳朶に唇を落とす。

妖艶な眼差しに射抜かれ、声が出せなくなる。
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