旅先恋愛~一夜の秘め事~
「……副社長、まさかまだ話されていないのですか?」


「話そうと思っていたら、お前が来たんだ」


「今から準備をいたしますので、その間にきちんとお話をなさってください」


加住さんが淡々と言って、再び部屋を出ていく。

扉が閉まった途端、暁さんが片眉を上げ私に向き直る。


「さっきの話の続きだが、お前がいなくなってどれだけ心配したと思う?」


大きな手のひらを私の片頬に沿わせた彼が、少し屈んで尋ねる。


「腕に抱きしめていたはずの唯花を必死に捜した」


切れ長の二重の目が私の目を覗き込む。

悲し気な様子に胸の奥が罪悪感で痛む。


「……なにかあったのか、事故や事件に巻き込まれたのか、ずっと気になっていた。あの日からずっとお前のことを考え続けてきた」


額に唇で優しく触れられ、心が軋む。


「本当にごめんなさい……」


「こうして会えたからもういい。でも悪いと思うなら、俺の頼みを聞いてくれるか?」


後ろめたさから即座にうなずくと、彼は花が綻ぶような笑顔を見せた。


「この後、俺と一緒に過ごしてくれないか?」


「仕事はいいんですか?」


「ああ、もう終わらせた」


「……わかりました」


出会った頃より今の自分は冷静になっているはずだ。


もう一度、自分の恋心を見つめなおしてみよう。


「ありがとう。じゃあ行こう」
< 65 / 173 >

この作品をシェア

pagetop