旅先恋愛~一夜の秘め事~
腕を外し、暁さんがそっと私の背中に大きな手を添える。

廊下を歩き、エレベーターに乗り込んで地下駐車場に向かった。

すると車に疎い私ですら知っている、紺色の高級外車が眼前で停まり、加住さんが運転席から降りてきた。

暁さんが助手席のドアを開け、私を促す。

戸惑いつつ乗り込むと、運転席に暁さんが腰を下ろした。


「電話には出てくださいよ」


なぜか渋面を浮かべた加住さんに見送られ、車が動き出す。

地上に出ると、車窓から夜色に染まりかけている街並みが見えた。


「どこに行くんですか?」


「食事に行こう」


そう言って、前を向いたまま私の頭を撫でる。

カーナビの液晶画面には午後七時、と時刻が表示されていた。

緊張で運転する横顔を直視できず、ハンドルを握る長い指を見つめていると、彼がフッと笑った気がした。

信号が赤になったのか、彼がブレーキを踏んだ。

直後に顎を掬われ、口づけられた。 

驚く私に気づいているのか、唇を離した彼が頬にも優しくキスをする。


「……唯花に触れたくてたまらない」


蜂蜜のように甘い声で囁かれ、体が一気に熱をもつ。


「このまま連れて帰って、抱き潰したくなる」


衝撃的な発言に息を呑むと、彼がフッと口角を上げる。


「でも今はとりあえず、食事だな」


顎に触れていた指が外れ、車が動き出す。

とんでもない発言に胸の奥がざわつく。

離れて冷静になったと思ったのは勘違いだったのか。
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