旅先恋愛~一夜の秘め事~
『堤は人を見る目があるし、なにより俺の考えや希望をよく理解している。あいつには大きな貸しができたな』


彼と堤さん、加住室長は学生時代からの友人だという。

古い付き合いの彼らはお互いのことをよく理解しているのだろう。

わかっているのになぜか心の奥が軋む。


『私で務まるか不安ですが、よろしくお願いします』


心に巣食う暗い影を追い払うように口にする。

秘書でありながら京都の仕事を任されるほど有能な堤さんの足を引っ張らないようにしなければ。


『そんなに構えなくていい。たとえ仕事でもお前に毎日会えるだけで俺は嬉しい』


甘い台詞に不安が少し薄らぐ。

好きな人のひと言が持つ威力の大きさを、この年になって初めて知った。

けれども、彼との関係は周囲にバレないようにしなくてはと自分を戒める。


「――綿貫さん?」


「は、はい」


堤さんに顔を覗き込まれ、ハッとする。


いけない、仕事なのだししっかりしなければ。


「大丈夫ですよ。副社長は綿貫さんが来てくださるのをとても楽しみにされています。おかげで業務が捗って、秘書課も営業課も綿貫さんには感謝しています」


「え……?」


一体どういう意味なのか、心の中で首を傾げる。
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