旅先恋愛~一夜の秘め事~
しばらくして玄関の呼び出し音が鳴り、暁さんが玄関に向かった。

誰かの話し声が聞こえ、すぐに暁さんが戻ってきた。

手には三つの大きな紙袋を提げている。


「誰が来ていたの?」


ゆっくり体を起こしながら尋ねる。


「葎だ。とりあえず今すぐ必要なものを持ってきてもらった。体調のよくないお前をひとりにしたくないから、さっきコインパーキングで頼んだんだ」


俊敏な対応と過保護ぶりに驚く。

キッチンに向かった彼は温かいほうじ茶を淹れてくれた。

カップを持ち上げると冷えていた指先に温かな熱が伝わり、ほっとひと息ついた。


「唯花、体がつらいところ悪いがこれを書いてくれ」


差し出された茶色い枠組みのある紙を目にして、呼吸が止まりそうになった。


「これ……なんで? 本気、なの?」


目の前のセンターテーブルに置かれた薄い紙は、婚姻届だった。

どうして妊娠を伝えたその日に入籍しようとするのかわからない。


もしかして……責任を感じているの?


さっきまで別離を覚悟していたのに、突然事態の変化に理解が追いつかない。


「もちろん本気だ。俺は唯花とお腹の子どもを法的にもきちんと守りたい」


「気持ちは有難いけれど、こんな唐突に決めなくても……」


「今回のように、唯花がひとりでなにもかも抱え込んで傷つくのは嫌だ。お前を誰かに奪われたくないし、一番に守る権利がほしい」


静かな口調で情熱的な台詞を口にする。

表情こそあまり変わらないが、綺麗な目はどこか不安そうに揺らいでいる。
< 99 / 173 >

この作品をシェア

pagetop