冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「私を狙っても、どうしようもないけれど」

 オルテンスは、デュドナの花嫁候補として王城に留まっている。


 今までにもデュドナの花嫁候補は沢山いた。ただし実際に花嫁としてデュドナに受けいれられた者はおらず、デュドナの妃というのは現状いない。
 またデュドナは冷酷王と言われているだけあって、判断の思いっきりが良い。その信念がぶれることがあまりない。


 王というのは、その国で最も権力を持ち、影響力のある存在である。そういう存在が優柔不断であれば、周りは大変である。最も暴君であると言えるほどに自分勝手でもそれは問題だ。
 ――デュドナは比較的自分で全て決める方だが、仕えてくれている者たちの意見は聞いている。ただ思いっきりが良い時は思いっきりがよくその行動により、冷酷王と呼ばれているだけである。


 その信念のぶれなさによる行動から、デュドナのことを恨んでいるものもいないわけではない。そもそもの話、全ての者たちに受け入れられるというのは普通に考えてない話である。なのでもちろん、王として目立った行動をしているデュドナを憎むものもいる。



 また他国からの花嫁候補を気に入らず、自分こそがデュドナの花嫁に相応しいと思っているメスタトワ王国の貴族令嬢たちなども当然いる。政略結婚というのはそういった思惑が色々交わるものである。




 オルテンスは王侯貴族としての教育をそこまで受けているわけではない。ようやくこの国でそれを学んでいる最中である。デュドナの正式な花嫁に自分がなれるとはオルテンスは思っておらず、なろうとも考えていない。
 なので、オルテンスのデュドナに対する態度は自然体である。そういう態度のオルテンスだからこそ、メスタトワ王国の者たちに受け入れられ、デュドナも普通に接していると言えるだろう。





 オルテンスとデュドナの距離は、周りから見てみると少しずつ縮まっている。ただし本人達は仲良くなれているとは考えていない。
 食事時に会話を交わしたり、共に日向ぼっこをしたりしながら世間話を交わす。
 オルテンスもデュドナも互いと話す空間を嫌がってはいない。寧ろ心地よいとさえ考えている。
 そうやって少しずつ距離を縮めていることは、王城の外にも噂として少しずつ広まっていたりもする。




 そのことに対する反応は人それぞれである。


 あの冷酷王が花嫁候補と仲良くなっていることに驚くものや、嘘だと思い込むもの。またオルテンスの存在に焦るものなどである。オルテンスはメスタトワ王国の中では現在それなりに話題に上がっているのだ。
 そう言うオルテンスなので、当然の話であるが狙われていたりする。



「オルテンス様、知らない人にはついていったら駄目ですからね!」
「……私は子供ではないよ?」



 ミオラもオルテンスが狙われていることを把握しているので、そんなことを口にする。オルテンスはもう成人している年なのだが、ミオラの口調はまるで子供に接するかのようである。



「分かっております。でもオルテンス様はとても無垢というか、純粋な方なので心配なのです。オルテンス様は力づくで攫われたら抵抗する力もないでしょう?」
「ないわ」



 オルテンスは今まで食事も満足に取れなかったので、肉付きもよくなかった。メスタトワ王国にやってきて食事を満足に取れるようになりすっかり健康体だが、運動などしたこともほぼない。攫われたらどうしようもないだろう。


「オルテンス様のことは私たちが命を賭けて守りますからね。でも必要でしたら護身術も学んでみますか?」
「命は賭けないでほしいわ。ミオラたちが死んだら嫌だもの。……護身術というのは?」
「ふふ、よっぽど危険なことがなければ命は賭けませんよ。でも私たちが命を賭けないでいいようにオルテンス様も気を付けて行動してもらえたらと思います。護身術は貴族の令嬢でも学んでいる方は学んでいるんですよ。捕まった時にどこを狙えば解放されるかとか。とっさの判断が命の危機を救いますからね」
「そういうの知りたいかも」
「なら、陛下に伝えておくので講師を招いて学びましょうね。オルテンス様は小さくて可愛いので攫うと思えばすぐに攫えそうですから」



 オルテンスは比較的小柄な体形をしている。男が二人でもいればすぐに攫えそうである。オルテンスには抵抗する術も現在ないので護身術を学ぶというのは、未来がどうであれオルテンスのためになることである。
 ミオラはオルテンスが少しずつやりたいことを口にして、色んなことを学ぶのを見るのが好きだった。
 それと同時にオルテンスが今まで抑制された生活を送っていたことが垣間見えて何とも言えない気持ちである。




「うん。ありがとう。でも、私を狙っている人がいるって……。私を狙っても、どうしようもないけれど」
「どうしようもあります! 陛下は冷酷王とは言われてますが、見知った相手が攫われたら動揺はすると思います。そして私を含むオルテンス様を好きな人たちはオルテンス様が攫われたショックで悲しいです。オルテンス様に何かあったらと考えるだけで胸が痛くなります。だから攫われないように消えつけましょう」
「うん。どんな風に気を付けたらいいの?」
「そうですね。先ほど言ったように知らない人にはついていかないとか、あとは私たちを絶対に何処に行くにも連れていくとか、そのあたりが最低限ですね。王侯貴族の中には護衛が邪魔だとおいていく方もいますが、そういうのは大変です。その時に何かあれば護衛が処罰を受けますからね」
「うん。分かった。気を付ける」


 オルテンスはミオラの言うことも最もだと思ったので、そう頷いた。

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