隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)









「そういえば、戸田くん。今日ミスしてないな。慣れてきた? 」


確かに、主任の言うとおり今日は「わざと」ミスしてない。


「……え、あ……。あの、浪川さんが根気強く教えてくださるから……」


キャラやめたのかと思いきや、お気に入りのままらしく続演している。


「今日も早く来てたみたいだし、偉い偉い。あ、いや、別に早く来なくていいからな? 」


パワハラだったかも、なんて気にしなくていいですよ、主任。
こいつ、絶対そんなの何とも思ってないから。


「いえ、その……先輩も早く出社されてるし。これ以上、浪川さんに迷惑掛けたくなくて」


(なに、その言って初めて照れたみたいな演技)


そして、主任のそのぎょっとした感もなに。
男ってやつは、本当に自分勝手で失礼だ――って。


(……男だけじゃないか)


私含め、みんなって言いたくなるほどたくさんの人が、きっと見た目に支配されてる。
ダイエットしたことを後悔なんてしてないし、健康的に痩せられたのはよかったと思う。
それなのにどうして、それを「私」のことだと全面に出していけないのか――……。


「……浪川さん。すみません、これ……」


そう言われたら、研修担当としては近寄らないわけにいかない。
サボりがてら様子を見に来た主任が、デスクに戻るのに背を向けた隙だって気がついてても。


「お前に褒められても嬉しくないっての。だから後で、碧子さんが偉い偉いして? 」

「……っ」


仕事中。
デスクワークメインの室内は、無音ではないしろ、それほど騒がしくはない。
いくら身を乗り出して小声だったとしても、誰かに聞かれるかもしれないのに。


「だーめ。ね」


人差し指を唇に当てたポーズが、これ以上ないくらいイライラする。
そんな幼児向けみたいな言葉で甘えるふりして、反応見て楽しむとか、信じられないサディスティックな嫌がらせ。
あの傾向も、どっちかというとそうだと思う。


(最悪……)


「先輩を慕ってる新人くんに、そんな顔しないの。バレちゃうよ? あの二人、何かあったのかなーって」


――ま、あったんだけどね?


何で、暴露しないの。
いっそ、条件どおりにやっておきながら、約束破ってバラしたらいいのに。
それをしないで、こっそり手を重ねたのが嬉しいって。
セックスよりも、強引なキスよりも。
遥かに何でもない触れ方で、満足・幸せみたいな顔して笑顔になるのはどうして。


『好きになっちゃった』


そんな言葉を、裏付けするような行動やめてよ。
せめて、痛いくらいぎゅっと掴んで。


「……好き。碧子さん。楽しみでしょうがないよ。いっぱい褒めてね? こんなに近くで、我慢我慢、してるんだからさ」


口では最低なことを言いながら、愛しそうに撫でられる。


「大丈夫だよ。そしたら俺も……」


――いーっぱい、いいこいいこしてあげる。






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