どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~
大きな窓から見える景色は、私たちのフロアから見るのとは違った。
もっと遠くまで見える。
いつもここで、いろんなこと考えて、悩んで、苦しんで……
「綺麗だろ」
「はい、すごく綺麗」
「でも、ひとりでこれを見ても何も感じない」
振り向くと、圭史さんは少し寂しそうな顔をしていた。
「圭史さん、今は辛いことない?」
ベストを脱ぎながら振り向いた圭史さんは、私にゆっくりと近づいて、
頭を撫でた。
「お前がいるから、大丈夫だよ」
「なんでも話してね」
「ああ、もちろん」
ネクタイを外し、胸元を緩める仕草にキュンとする。
がっちりした胸板がかっこいい。
「一緒に見る夜景は、綺麗だな」
「そう思ってくれるなら嬉しい」
まだまだ仕事モードの顔が素敵。
仕事してる時のかっこよさってやっぱり特別だもんね。
「来週から、新人が研修に来るんだよ。営業にも行くから頼むな」
「あ、聞きました。ピチピチの新人くんが来るって」
「もう知ってんのか」
「吉岡先輩から聞きました」
ハッとしたのは私だけじゃなかったようだ。
思わず口から出た、吉岡先輩の名前に圭史さんも動揺しているように見えた。
「ああ、吉岡か」
「あの……圭史さん、吉岡先輩と仲良かったんですか」
こんなことを聞くつもりはなかったのに。
流れで、今しかないと思った。
「何か、聞いてる?わざわざ話すことでもないと思っていたが、お前の先輩だったな」
ソファに腰かけた圭史さんは、私に手招きをした。
「最初に、小久保万由って名前を聞いたのは、吉岡からだよ。かわいい後輩が来たって喜んでた」
知らなかった。
あの頃、吉岡先輩と圭史さんは繋がってたんだ。
かっこいい社長ですね、って話した記憶がある。
「詳しくは何も聞いてないんです。聞きたいような聞きたくないような複雑な気持ち……」
肩を寄せ合い、手をぎゅっと握ってくれた。
私は圭史さんのがっしりした肩に頭を乗せた。
「隠すようなことは何もない。お前も知ってると思うけど、吉岡はああいう性格だから、今も普通に話す。俺が社長になる前だからもう何年も前のことだけど、よく飲みに行って、仕事の愚痴とか話してた」
「好き、だった?」
圭史さんは顔をまっすぐに向けたまま、しばらく黙っていた。