大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 行正は今、笑ったことをなかったことにするように、厳しい顔で、
「ほら、さっさと歩け」
と咲子の背中を、トン、と突く。

 軍人の行正にそうされると、銃で押されているような気持ちになる。

 咲子は押された弾みで、少しよろけながら、前に進んだ。

 行正は、咲子と並んで小さな石の祠を拝んでくれた。

「よく道端の祠に手を合わせてはいけないとか言いますけど。
 ここは大丈夫ですよ。

 昔から近所の人たちが拝んでるとこなんで。
 なんでここにあるのか、いつからあるのか、由来は誰も知らないんですけどね」
と笑うと、

「適当だな、ここらの人たちは」
と行正は言う。

 はあ、適当で、ゆるい感じで。
 私は好きですね、と思ったとき、行正が、

「よし、さっさと戻れ」
と軍隊の上官のような口調で言ってきた。

 はっ、了解でアリマスッ、となにも正しくはなさそうな軍隊的な言葉遣いで思い、咲子は車に向かって歩き出した。





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