恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
だが、しばらくして彼女が宝物でも抱くように俺を抱きしめてきて、その温もりに心が穏やかになっていくのを感じた。
 マイナスの感情に支配されていた心が清められるような……。
 母にもこんな風に抱き締められたことなどなかったから、人の体温がこんなに温かくて、安らぎを与えてくれるなんて初めて知った。
 いつの間にか眠っていて、起きたらベッドに美鈴はいなかった。
『逃げられたか』
 夜中に暑くて脱いだのか、床にはスーツのジャケットやシャツなどが落ちている。時間を確認すると、午前六時を回ったところで、シャワーを浴びて、床に落ちた服を集めて着ていたら、俺のものではないホテルのクローク札を見つけた。
『慌ててて忘れたんだろうな』
 クローク札をギュッと掴んでポツリと呟く。
 お金も受け取らずに帰るなんて……。
 このまま会えなくなるのは納得いかない。
 彼女が悪い男に支配されているなら、別れさせなければ。
 クロークで自分と美鈴のコートを受け取り、ホテルを出て一度家に帰ると出社した。
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