恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 なるべく平静を装って聞いたつもりだが、彼女には俺が驚いているのがバレバレだったようだ。
「うん。母がいた時からここに住んでて。ビックリさせてごめんね。でも、こんなところでも私と歩の家なの」
 どこか寂しそうに笑って彼女は歩くんの手を握り、「送ってくれてありがと」と言って車から降りる。
 弟と一緒に俺に手を振ると、彼女は一階の角部屋に入っていった。
 これまで彼女を蔑むような発言をしたこともあって引っ越した方がいい……と言えなかった。
 彼女なりの事情もあるだろう。子供がいてはもっといい部屋に住むのは難しいのかもしれない。
「あのアパートはマズいだろ? 若い女の子と子供が住む場所じゃない」
 助手席にいる拓真が後部座席にいる俺を振り返って渋い顔をする。
そんなこと言われなくてもわかってる。
「このままにはしない」
 彼女が住んでいる部屋を見据え、自分に言い聞かせるように呟いた。


< 69 / 256 >

この作品をシェア

pagetop