断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる

 ぎゅうと寂しさをうめるように、抱きしめられる。心臓がドキドキしているのが伝わってしまったらどうしよう。でも暖かくて、安心する匂いに包まれて、幸せ。

 ――あれ? もしかして……。

「ジャックさまも、鼓動がはやくなっていらっしゃる……?」
「――恥ずかしいな。でも好きな女の子がこんなにも近くにいるのだから、当たり前の反応だよ」

 ジャックさまは、照れ笑いをして、わたくしのおでこにキスを落としてくださった。その麗しさったら、心臓が壊れそうなほどだ。

「一ヶ月位で迎えに来るよ。僕があげた指輪、このままはずさないでいてね」
「勿論です。あっ! ジャックさま、これ……。ラッピング出来ていないのですが、指輪のお礼に刺繍したんですの。もしよかったら、ハンカチを受け取ってくださいますか?」
「!」

 わたくしの右手の薬指についているリングを、もてあそぶように触れていたジャックさまに、ハンカチを見せると、ほんのり頬をあからめて、破顔してくださった。尊い……。

「僕の王冠に、ヴィーのシンボルマークだね。ブルーローズが、ヴィーの瞳のようで美しいね。嬉しい、ありがとう。一生大切にする」
「こちらこそ、受け取ってくださって、ありがとうございます」

 こんなに近くでジャックさまとお話出来るなんて夢のよう。でも幸せな時間はあっという間に過ぎていくものだ。

「ヴィー。僕がいない間、他の男と話したら駄目だからね」
「はい。気をつけますわ」
「名残惜しいな。だけど、そろそろ帰らなくちゃ」

 ジャックさまは、しゅんとして、わたくしの髪を一房手に取り、口付けてくださる。そのジャックさまの手を、両手で上から重ねて、目をまっすぐに見つめる。

「どうかお気をつけて。お帰りをお待ちしております」
「ありがとう。ヴィー、愛しているよ」
「ジャックさま、わたくしも。愛しています」

 ここは2階だというのに。ジャックさまは手を振ると、バルコニーから飛び降りて、暗闇に消えてしまった。やっぱり幻だったのかと思うほどの非現実的な出来事に、とってもハラハラした。

 次、お会い出来るのは、一ヶ月後。きっとジャックさまをお見かけ出来ないだなんて、果てしなく長く感じてしまうでしょうね。
 ジャックさまとお会いするまでに、少しでも素敵な人間になっていたい。わたくしは、自分磨きをすることを決意した。

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