断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる

(少し集中しすぎてしまったかしら……?)

 寝る支度をして、早くベッドに入ろうと立ち上がったところに、コツンと物音が聞こえる。
 何だろうかと、音のする方へ向かう。どうやらバルコニーから鳴っているようだけど……。

「……っジャックさ、ま――!?」

 わたくしの部屋のバルコニーに、ジャックさまが、そこにいた。マントをかぶっていても神々しい。目を疑うも、にこやかに手をふるジャックさまは、どうやら幻覚でなく本物のようで……。

 慌ててバルコニーをあけて、部屋に上がってもらう。いつからいらっしゃったのだろう。春だけど、夜は少し冷え込むというのに。

「やぁ。急にきてしまってごめんね」

 びっくりしつつも、少し困った顔をされたジャックさまの顔が、とても綺麗で言葉を失う。その表情は、初めて見るもので、これから様々なお顔が見れると思うと、鼻血が出そうになってしまうわ。

「ヴィー……?」
「うひゃっ!」

 返事が遅れたわたくしの顔を覗き込む。ジャックさま、待ってください!
わたくし、本当に鼻血出ちゃいます……っ!

「ジャックさま、ごきげんよう……? あの、いつからここへ……?」
「少し前からかな。刺繍をしているヴィーが愛らしすぎて、目を奪われてしまってね」
「!?」
「ははっ。本当にコロコロ表情が変わってかわいいな」

 そ、そんなに表情が変わってしまっているのかしら!? 無表情女とよく呼ばれていたのだけれど。

「そ、それよりも。今夜はいかがなされましたの?」
「ヴィーに逢いたかったのと、今後の事を話したくてね」

 そういうとジャックさまは、真面目な凛々しい表情になって、言葉を紡ぐ。

「明日の早朝、隣国へ王女の葬儀に行かなくてはならないんだ。ヴィーのこと公式に婚約者として認められるのは、喪が明けてからになる。早く一緒になりたいけど、外交問題になってしまうから。暫く逢えないけど、いつもヴィーの事を想っているよ」
「はい。承知しました。わたくしも、いつもジャックさまのことを想っております」
「ありがとう。愛しているよ、ヴィー」

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