断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる

14.僕に任せて

 


「ヴィー、下がっていて」
「っでも」
「大丈夫。僕に任せて」

 ジャックさまが、凛々しい表情で腰に下がっている剣の柄を握った。
 かっこよくて思わず見惚れてしまうけれど、イーサンは物凄い勢いで階段を下っている。
 急いでルナを抱っこして、先ほど隠れた物陰へ駆け込む。

 すると間もなく、怒りで顔を真っ赤にしたイーサンが現れた。
 ジャックさまの顔を見ると驚き目を釣り上げた。

「兄上、あの女狐を見ませんでしたか」
「君はもう弟ではなくなったよ。イーサン、お前にはガッカリした」
「ま、まさか! まだヴィクトリアに騙されているというのか!」

 イーサンは、烈火の如く怒りの声をあげ、ジャックさまを非難した。
 反対にジャックさまは、氷のように冷めている表情で、言葉を紡いだ。

「愚かだね。弟へのせめての情けで生かしておいたのに。やはりあの時、息の根をとめるべきだったな」
「兄上の目を醒まして差し上げる!!! うおぉおおおお!!!」

 雄叫びを上げたイーサンが剣を抜いて、ジャックさまへ斬りかかろうと走り込む。
 しかしジャックさまは剣を握って動かない。わたくしは息を呑んでその様子を見る。

 怒りのあまり、隙が多いイーサン。ジャックさまが長い足を伸ばすと、イーサンはそれに気がつかず、顔面から転んだ。

 ジャックさまは、イーサンの上に膝を立てて乗り上がり、その手首に手錠をかけた。

「くっそ、卑怯だぞ!!!」
「話にならないな」

 手錠の鎖をひっぱりあげると、イーサンの上半身が持ち上がる。そして首の後ろに手刀を落とすと、喚いていたイーサンの意識も瞬く間に堕ちたようだった。
 ジャックさまはため息をついた後、こちらに向かって片方の口角をあげて笑った。

「ヴィー。もう大丈夫だよ」
「ジャックさま……! ご無事でよかったです……!」

 ジャックさまの元に駆け寄って、彼の服をぎゅっと握りしめる。
 絶対ジャックさまなら大丈夫だと思っていた。けれど、相手は元婚約者を拉致監禁するようなイーサンだったから、不安で……。
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