断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる

「ごめんね、ヴィーの前で暴力なんてふるいたくなかったんだけど」
「いいえ。……私も彼に思い切り頭突きしまいましたから……」
「え、頭突きだって!? 」

 驚いたジャックさまが、わたくしの額に手を置いて、怪我がないか確認してくださる。
 その優しさに、胸がくすぐったくなり、わたくしは笑みを浮かべた。

「……少し腫れてる。ヴィーに傷をつけるだなんて万死に値する」
「ふふ、心配してくれてありがとうございます」

 綺麗なお顔が顰められている。眉の辺りを緩ませるように撫でると、その手に擦り寄ってきた。

「帰ろうか、ヴィー」
「はい」
「にゃう〜ん!」

 まるで「私も忘れないで」と言ってるかのような愛猫ルナが、ジャンプして肩に乗ってきた。
 歩みを進めるジャックさまに、着いて行こうと足を前に運ぶと、ふと気が付く。

「ジャックさま。あちらのお方は、そのままでよろしいのでしょうか」
「あんなゴミ屑、ヴィーが気にすることないよ。見たら目が穢れるから、俺だけを見て」
「え? あ、はい……」
「大丈夫。俺に着いてきた影が、厳重に輸送してくれるから」

 ジャックさまが片腕を掲げて、指を鳴らすと、風の音が聞こえて、どこからか人が現れた。
 厳重に縄でぐるぐる巻きにされて、麻袋にいれられるところを見届けると、ぽんっと肩を叩かれた。

「ヴィー、俺を見てって言ったでしょう」
「あ、ごめんなさい。ジャックさま」

 ジャックさまによって、手を繋がれると、一気に体温が上がった。
 言いつけ通り、ジャックさまを見つめて、後を追いかける。

 ジャックさまが振り返ると、わたくしを見て満足げな顔をした。



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