ただいま配信中!~年上幼馴染は人気Vtober~
 楽譜を立てかけて、鍵盤に指を置く。

 すぅ、と息をしてから楽譜通りに手を動かしはじめた。

 ぽろん、ぽろん、とピアノが美しい音を出す。

 とても素敵な曲だった。

 少し切ないような感じもある曲だな、と私は楽譜を目で追って、集中して弾きながら思った。

 うしろからは、あの香りと、なんとなくあったかい気配が伝わってくる。

 気を抜けばどきどきしてしまいそうで、私は余計に集中した。

 弾くのはもちろん、かなりゆっくり。

 それでも間違えずに弾けている。

 私はどきどきしつつも、楽しくなってきていた。

 これは意外といいかもしれない。

 曲も好きになれそうだし、練習を積めば余計にそう思えるだろう。

 やがて一応最後まで弾き終えて、そっと鍵盤から指を離した。小さくため息が出る。

「どうかな?」

 ほっとして振り返って聞いたのだけど、そのとき私の心臓がどきんっと高鳴った。

 だって出雲くんは身を乗り出して私が弾くのを見ていたようで、私の顔と接近してしまったのだから。

 涼し気な目と、はっきり視線が合う。

 その目は私を間近で見つめていて、驚いたように見張られていて……。

 かぁっと顔が熱くなる。きっと赤くなっただろう。
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